堕ちて混ざって笑いましょう
とりあえずどうしよっか
自分達の置かれた状況を把握したツナの顔色は、青を通り越して白くなっていた。
「え?ええ!?どどどどどどうしよう!!」
ツナは辺りをキョロキョロ見回しながら、頭を抱える。そんなツナの肩を山本が叩いた。
「落ち着けって、ツナ!慌てても何も始まんないぜ?」
山本はツナにニカリと笑って見せる。そんな山本の様子に、ツナは幾分落ち着きを取り戻した。
「う……うん、そうだよね。ごめん山本……」
ツナは瞬時に山本の笑みを―――作り笑いを見抜いた。そしてすぐに不安を煽るような自分の行動を謝る。そんなツナに山本は「良いって良いって」とまた笑った。
「……とりあえず、ここにいても仕方ありません。ここがどんな世界なのか把握するためにも、場所を移動しましょう」
獄寺は冷静にこの場を判断し、ツナに提案する。確かに路地の真ん中にいても仕方ないので、ツナと山本は獄寺の言う通り移動することにした。
住宅街は静かなもので、幾人か主婦やご老人と擦れ違った以外はほとんど誰にも会わなかった。
三人は住宅街を宛もなくさ迷い、やがて小さな公園に辿り着く。
三人は休憩がてらその公園に入ると、ベンチに座り込んだ。
「……とりあえず、ここは俺達の世界とあんまり変わりはなさそうだね」
ツナが少し安堵したように呟く。その言葉に山本は同意した。
電柱に書かれた住所や宣伝で、この世界の文字は読めることがわかった。
ここに着くまでに見つけた自販機で、自分達の世界の通貨が使えることがわかった。
携帯電話はどこにも通じず、使い物にならないことが分かった。
コンビニにかかっていた時計で、自分達の時計がこちらの世界でもズレることなく使えることがわかった。
この世界は自分の世界とあまり変わりがないことは確かに分かった。
―――しかし、これからどうすれば良いのかはさっぱり分からなかった。
「……これからどうする?」
何気ないように、山本が尋ねる。
「帰る方法について探したいけど……手がかりもないし……」
ツナが呟くように答えると、それまで黙っていた獄寺がツナの言葉を遮った。
「手がかりならあります」
ツナと山本は顔をあげ、獄寺を見る。獄寺は言葉を続けた。
「……俺達がこの世界に飛ばされた時、声がしました。十中八九、その声の主が俺達をこちらに飛ばした犯人です。犯人がいるなら、そいつを問い詰めれば元の世界に戻る方法、あるいはヒントを得ることができるはずです」
あっ、と思わずツナは声をあげる。異世界に来た衝撃からか、それとも夢のせいか、ツナは光から聞こえた声の事をすっかり忘れていた。
「でも……その犯人ってのをどうやって探すんだ?俺達こっちの世界について全然知らないんだぜ?」
山本が困ったように尋ねると、獄寺は目をつり上げ眉間にシワを寄せた。
「やっぱりお前は野球馬鹿だな。こんなもん、こっちからわざわざ探す必要なんてねぇんだよ」
獄寺のその言葉にツナと山本は首をかしげる。
「え、どういうこと?」
ツナが聞くと、獄寺は途端に柔らかい表情になった。
「思い出して下さい、10代目。俺達がこちらに来る直前に聞いた言葉には、『嵐』『雨』『大空』の言葉が入ってました。おそらく犯人は俺達を意図的に、何らかの目的のために、こちらへつれてきたんでしょう。つまり俺達がわざわざ探しに行かなくても、犯人は俺達を利用するために何らかの方法で接触してくる可能性が高いということです」
ツナは分かったような分からないような顔で頷く。
「つまり……俺達は敵が来るまで待っていれば良いって事?」
そう尋ねると、獄寺は頷いた。
「獄寺頭良いのな〜」
少しだが帰れる可能性が見えたからか、先程まで固い表情だった山本はいつもの笑顔で笑った。
ツナはそれを見てつられて笑う。
「まぁ、本当は敵が来るのを待つなんて性に合わないんですけどね。……でも今回ばっかはしかたねーっす」
獄寺も二人の笑顔に張っていた気が抜けたのか、そう言って軽く笑った。
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