堕ちて混ざって笑いましょう
悪夢
蛭魔は呆然としているツナを置いて、部室から出ていった。
一人残されたツナは机にうつ伏せに頭を乗せる。
普通あそこまで細かく個人の情報が捕まれることなどそうそうあることではないだろう。
つまりあの蛭魔妖一という男性は、普通じゃないということになる。
(……そもそもマシンガン持ってる時点で普通じゃないし……もしかして……ヤバそうな所に来ちゃった……?)
しかしそう心では呟くものの、心のどこかで「大丈夫」という確信があった。
(超直感、かな……?)
戦いが起きる度にツナを支え助けてきた超直感は、ツナにこの場所にいることを勧めている。
どっちにしろ行く宛も帰る場所もない事を思い出したツナは、とりあえずは超直感を信じよう、と大人しく部室で休んでいることにした。
「……」
まもりはデビルバッツのメンバーの走力測定の結果を記録しながら、部室のある方角をチラ見していた。
「綱吉くんが心配?」
そんなまもりに気付いた栗田が尋ねると、まもりは頷いた。
「あの子……どことなく昔のセナに似てるから……」
それを聞いた栗田は初めてセナと会ったときを思い出す。
気の弱そうな表情に、小柄な体。
優しく、人の良さそうな瞳。
ついでに重力無視な髪型。
言われてみると、確かにセナとツナはところどころ似ていた。
「なんだか放っておけなくて」
そう言ってまもりは眉尻を落とす。
そこに盛大な銃声が響いた。
「糞デブ&糞マネ!!サボってんじゃねえぞ!!」
栗田は慌てて巨体を揺らしながらメンバーの元へ戻っていく。
入れ違うように、蛭魔がまもりに近付いてきた。
「おい、糞マネ」
まもりは汚い呼び方に眉を少しひそめながら蛭魔を見上げる。
「あのチビガキ、暫くは泥門で預かるぞ」
その蛭魔の言葉にまもりは目を大きく見開く。
「……どうして?」
やはり彼は家には帰りたくないのだろうか、とまもりは眉をハの字にする。
「知りたきゃあのガキに直接聞け。それと、今日の帰りにあのガキ誰の家に泊めっか決めんぞ」
それだけ言うと、蛭魔はさっさとフィールドの方へ戻っていった。
何事もなく本日のメニューをこなした面々はそれぞれ使った道具を運びながら部室へ戻っていく。
「疲れた〜」
セナもモン太と共にボールを運びながら部室への扉を開いた。
「お疲れさま」
一足先に部室に来ていたまもりが、二人に気づいて声をかける。
「綱吉くん、寝ちゃったみたいだね」
机にうつ伏せに寝るツナに気付いたセナが呟くと、モン太もツナの方に目を向ける。
「ホントだ。顔色悪かったしな……」
二人はボールをしまうと、ツナを起こさないようにしながらツナの両隣に座った。
『テメェ沢田!今日こそは許さねえぞ!』
−−−違う……
『沢田サイテー!』
『アリサちゃんに謝れ!』
−−−俺はやってない
『お前なんかを親友だと思ってたなんてな』
−−−やま……もと?
『テメェには幻滅したぜ沢田』
−−−ご……くでら君?
『私ツナくんがそんな人だなんて思わなかった!』
『ツナさんヒドイです!女性の敵です!』
『極限に男の風上にも置けんぞ沢田!』
−−−違う、違うんだよ京子ちゃん……ハル……お兄さん……
『女を襲うなんて男のすることじゃないわ』
−−−ビアンキ、俺はやってない
『ツッ君?好きな子の気を引きたいのは分かるけど、やり過ぎたらそれは苛めなのよ?好きな子が悲しむのはツッ君も悲しいでしょう?』
−−−母さん……違うんだよ……
『もう!そんな分からず屋さんのツッ君にはご飯は上げません!反省なさい!』
−−−母さん……
『ウゼー』
『学校来んなよ』
『なんであんたなんかが生きてんのよ』
『お前なんかのせいでアリサちゃん傷付いてんだぞ』
−−−違う、違う違う違う違う違う!俺はやってない!どうしてみんな信じてくれないの!?
『マフィアは女を大事にするもんだと教えただろーが!!このダメツナが!!』
−−−信じてよ……リボーン……
『ヒドイ』
『サイテー』
『アリサちゃん可哀想』
『テメェみたいな野郎がいるから』
『もうさ、お前……死ねよ』
−−−み……んな……信じて……
「−−−−−な−く−−よし−」
−−−みんな……
「綱吉くん!!」
ビクリと肩を揺らし、重い瞼を押し上げる。
ゆっくりと顔を上げると、心配そうなセナとモン太とまもりの顔が目に入った。
「綱吉くん大丈夫?」
「うなされてたけど……」
セナとまもりの言葉に今まで自分が寝ていたことを悟る。
「あ……すみません、大丈夫です」
この人達を困らせてはならない、とそう返事をするが、モン太は首を横に振った。
「大丈夫って顔してねえぜ?」
そう言われてツナは自分の顔に手を当てた。
そこにあったのは濡れた−−−−涙の跡
「えっと、あの、ほ……ホントに何でもないんです」
ツナはまもりが置いておいたタオルを掴んで乱暴に顔を拭いた。
「ちょっと夢見が悪かっただけっていうか……この歳になって怖い夢見ちゃっただけなんで」
そう言って精一杯笑おうとするツナに、セナとモン太とまもりは互いに顔を見合わせる。
しかしこれ以上踏み込むことを拒絶しているツナに何をすることも出来ず、結局三人は黙り込んだ。
嫌な沈黙が流れようとしたとき、外からガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。
扉が音をたてて開く。
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