[携帯モード] [URL送信]

堕ちて混ざって笑いましょう
掃除


「そう言えばツナ、今日はちょっと掃除して欲しいことがあるの」

その日のバイトは、侑子のその一言から始まった。ツナはマルに渡されたエプロンを制服の上から着ながら首を傾げる。

「どこですか?」

すると侑子は妖艶な笑みを浮かべながら、とある方向を指差した。

「私と貴方が初めて逢った部屋……よ」

ツナは侑子の言葉に軽く目を見開く。そんなツナに侑子はますます笑みを深くした。

「使うんですか?」

「明日、『客』が来るのよ」

少し考えるようにしたツナは、小さく「分かりました」とだけ応えると、侑子の横をすり抜けて『部屋』へと向かった。


ツナは言われた通り掃除道具を持って部屋へ入った。

襖を開けると一番に飛び込んできたのは、大きなソファ。

月をモチーフに和と洋の入り交じるその部屋は、侑子のお気に入りの部屋である。

(……けど珍しいな……わざわざ掃除を頼むなんて)

一応ツナは各部屋の埃取りと掃除機がけ、そして廊下の雑巾がけはバイトのメニューとして毎回こなしていた。

しかしわざわざ頼んだということはそれ以上の徹底した掃除を求めているのだろう。

(よっぽど特別な客なのかな?)

ツナは勝手に侑子の明日の予定を推測しながら、掃除道具を部屋に運び入れた。



翌日、いつも通りダメダメさを発揮させたツナは、全ての授業を終えて学生鞄に教科書を詰めていた。

今日は侑子に店に来ないように言われていた。昨日の掃除もあったため、ツナは特に気にすることなく了承する。前にも特別な客が来るときは暇を貰うことがあったため、こうなることは予想していた。

しかし突然出来た休みに特に予定があるわけでもない。遊ぼうにも獄寺はまだイタリアから帰ってきておらず、山本は部活がある。

仕方なくツナは部活に行く山本に「また明日」と一声かけると、そのまま真っ直ぐに家へと向かった。



帰る途中、住宅街を進んでいると、突然後ろから奇声のような悲鳴が聞こえてきた。

「だぁあぁあああ!!」

声に驚いたツナはバッと後ろを振り返る。ツナが見たのは、黒い学ランに細縁眼鏡の青年が、角を曲がってこちらに走ってくる光景だった。

あまりの青年の必死の形相に、思わずツナが避けるように飛んで横に退く。しかし同時に、ツナを避けようとしてか青年はツナの進行方向へと足を進めた。

「「!?」」

同じ場所に避けようとした二人は、当然のようにぶつかって雪崩れるように倒れる。

「すすすすすみません!」

慌てて謝罪しながらツナは起き上がると、ぶつかったときに落ちた青年の眼鏡を拾い上げる。

こういう人に迷惑をかけた時だけ、自分の運動能力のなさが恨めしかった。

一方青年はツナの謝罪に「こっちこそごめんね」と首を振りながら起き上がる。ツナから受け取った眼鏡をかける。

「げっ……」

ツナの背後に何かを見た青年は、短く声をあげると表情をひきつらせる。そして慌てて自分の学生鞄を取ると、最後にもう一度ツナに謝罪して、そこから走り出した。

一体何を見たのだろうと思いながらツナは青年の見ていた方を振り向く。

そしてツナも同様に顔を青ざめさせた。


ツナが見たのは、大量の妖が混ざり合いながらこちらに向かってくる姿だった。


妖達はツナに気づくと、一斉に襲いかかる。

「いぃぃいい!!」

いつものダメツナはどこに行ったのか、そう疑ってしまうほどの反射神経で妖達の攻撃を避けると、そのまま全力で走り出す。

それからツナは妖達に追われたり小突かれたり食われかけたりしながら必死に家路を走った。




[*前へ][次へ#]

18/23ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!