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堕ちて混ざって笑いましょう
手料理

山本と別れたツナが並盛商店街を歩いていると、頭上から小さな影が降ってきた。

(アヤカシ!?)

突然の事にツナは反射的に影を警戒する。

影は空中で一回転すると、ツナの足元に降り立った。

「ちゃおっす!」

小さな影の正体は、黒のスーツに身を包んだリボーンだった。

「リボーン!」

アヤカシではなかったものの、自分の疫病神である赤ん坊の姿にツナは盛大に顔を引き攣らせる。

そんなツナにリボーンはニヒルな笑みを浮かべた。


「ツナ、山本をお前の部下にしろ」


ツナはリボーンの言葉に目を見開く。

次の瞬間ツナは噛み付くように反論していた。

「お前俺のクラスメートまでマフィアにする気かよ!!」

ツナの言葉にリボーンは笑みを浮かべながら頷いた。

「そうだぞ。奴の運動能力と人望はファミリーに必要だ」

そんな自分勝手なリボーンの言葉にツナは目を吊り上げて怒鳴る。

「冗談じゃない!山本は野球に燃えてるんだぞ!俺はそんな山本を人殺しの仲間なんかにしたくない!!」

怒りのままにそう言うと、ツナは早足でその場を去った。



ツナはリボーンの元から離れたその足でそのまま店に向かった。

店に着く頃にはリボーンへの苛立ちも冷めており、ツナはいつも通りの表情で店のドアを開く。

「こんにちわ〜」

玄関から声をかけるとマルとモロがツナを出迎える。

「ツナ!」

「ツナ来た!」

きゃっきゃっと嬉しそうに二人はツナに抱き着く。

そんな二人の頭をツナは優しく撫でた。

「遅かったじゃない」

マルとモロと戯れていると、ビール缶を持った侑子が奥から歩いてきた。

「すみません。ちょっと学校で居残りがありまして……」

ツナは靴を脱いで上がると、侑子にそう言った。

侑子はツナをジッと見ながら一言「そう」とだけ言うと、その後思い出したように手を叩いた。

「そういえば、ツナ!早速だけどおつまみ用意して!」

ツナは侑子の言葉にピシリと固まった。そして油の注されていない機械のようなぎこちない動きで侑子を見上げる。

「……買いに行くんですか?それとも俺が作るんですか?」

すると侑子はにっこりと満面の笑みを浮かべて即答した。

「手作り!」

ツナは侑子の言葉に脱力するようにうなだれた。そんなツナを侑子はケラケラと笑う。

「なんか時折、ツナの初々しい手料理が無性に食べたくなるのよね〜」

そんな事を言いながら侑子はビールを煽った。

そしてツナの返事を聞くことなく、侑子は上機嫌で奥の部屋に戻って行った。



料理があまり得意でないツナは、料理本片手に全力を尽くして煮物を作る。

やっとの思いで出来た、少々見目の悪い煮物を持って行くと、侑子の側には一升瓶が何本も転がっていた。

「お待たせしました〜」

どこかげんなりした様子でツナは持って来た煮物を侑子の前に置く。

侑子は嬉しそうな声をあげると、「いただきまーす」と言って煮物に食らい付いた。

「これこれ!このどこか初々しい見た目!味!」

「さっきから言ってるその『初々しい』って何なんですか!?」

何気に失礼な物言いにツナは盛大なため息を吐く。

「料理苦手なんですから、やらせないで下さいよ……」

侑子の飲み終えた酒瓶を片付けながら言うと、侑子はクスクスと笑った。

「あら、美味しいわよ?」

形が崩れた人参をつまみながら侑子が言う。そして笑みを深くすると、侑子はツナを見た。

「それに、しばらく食べれなくなるかもしれないし……ね」

侑子の意味深な言葉に、サッとツナの顔は青ざめる。一瞬ツナの思考が止まり、危うく持っていた酒瓶を落としそうになった。

「え、ええ……えぇぇええ!?そ、それどういう意味ですか!?」

不吉な!と叫ぶツナに侑子はただ笑う。

「別にツナがどうなる、とかじゃないわ。……そうね、もう少しすれば分かるわよ」

そう言って侑子は人参を口に入れた。

「それよりツナ。今日はどうして居残りなんかになったの?」

侑子は酒瓶を片付け終え、侑子にハイボールを用意し始めたツナにそう尋ねる。

「え?ああ……大した事じゃないんですが……また体育の後片付けを押し付けられたんですよ」

苦笑気味にそう言うと、侑子は再びツナをジッと見つめた。

「そのわりには機嫌良いわね。いつもならもっと不機嫌そうにしてるのに」

侑子の言葉にツナはバッと片手で頬を抑えた。そんなに顔に出ていたのかと、ツナは驚きを隠せないでいる。そんなツナの様子に侑子は鈴を鳴らすように楽しげに笑った。

「さあさあ、話なさいな。じゃないと遅刻分バイト代から差し引いちゃうわよ〜」

ツナは侑子のその言葉に、慌てて今日の体育の事について話し始めた。



「なるほどね〜そんなことがあったの」

ツナは侑子の皿に煮物のおかわりを入れながら頷いた。

「山本君っていい子なのね」

侑子はそう言ってコップを煽る。片付けたはずの侑子の周囲には、早くも三本の酒瓶が転がっていた。

「そうですね。ダメツナにも対等に扱ってくれるし、山本は良い奴ですよ」

新たに生まれた空瓶を、他の空瓶と同じところにまとめながらツナが応える。

すると侑子は意味深な笑みを浮かべた。


「羨ましい?」


ツナは少し肩を揺らすと、顔をあげる。侑子は持っていたコップを置くと、再び口を開いた。

「山本君が、羨ましい?」

ツナは侑子の問いに思わず閉口する。侑子は気にした様子もなく、言葉を続けた。

「運動神経が良くて、クラスの人望も厚い。当然女の子にはモテモテ。そんな山本君が羨ましい?」

『俺もあんな風だったら』

ツナは体育の時間に考えてしまったソレを思い出す。

ツナはゆっくり顔をあげると侑子を見た。

「羨ましくない……って言ったら嘘になります。……でも、ダメツナになる事を選んだのは俺ですから」

そう答えると、侑子は艶やかに笑った。

「そう」

侑子は箸を取ると、皿に残った最後の山芋を口に運んだ。

「ツナ!無くなっちゃったからおかわり!」

ツナは突然のテンションの変わりように思わず脱力しながらも、空になった皿を受け取る。

ツナの足音が部屋から離れて行くのを聞きながら、侑子は氷の入ったコップに触れた。


「まあダメダメなのも大変だけど、人気者も楽ってわけじゃないわ―――明日、それが分かるでしょうね」


氷は熱で溶け、カランと軽い音を立てた。

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