[携帯モード] [URL送信]

堕ちて混ざって笑いましょう
山本武

翌日、獄寺は宣言通りイタリアへ帰国していたためツナは一人で学校に来ていた。

何事もなく教室へ向かうとクラスメートの何人かと挨拶をし、静かに席につく。

可もなく不可もない朝。

(つい最近までこれが日常だったんだよな……)

ツナは机に突っ伏して惰眠を貪る振りをしながら考える。

(……前は何も感じなかったけど……つまんない……)

そこまで考えるとツナは、ぐりぐりと額を強く机に押し付けた。

結局やることもなく、そのまま本当に惰眠を貪っていると始業のチャイムが鳴り響いた。



授業は順調に進み、今は体育の時間。

毎度の事ながらツナは野球のチーム分けの際、一人あぶれていた。

「だからダメツナはお前達のチームにくれてやるって」

「やだね!まけたくねーもん」

「野球が超ヘタなのは分かってるからな」

人の気持ちを考えない、遠慮のない言葉がツナを挟んで行き交っている。

(それもこれも全てはアヤカシに喰われないため……耐えろ俺)

ツナは何も言わず誰にも目を合わさず、クラスメートの棘のある言葉に耐えていた。
そんなとき、不意にツナの後ろから声が上がった。


「いーんじゃねーの?こっち入れば」


その言葉にツナは驚いて声のした方を勢いよく振り向いた。

するとそこには野球部一年エースの山本武が立っていた。

山本の言葉に驚いたのはツナだけではなく、山本のチームメートの面々も驚きの表情を浮かべていた。

そして彼等はすぐに我に返ると、山本の提案に反論した。

「まじ言ってんの山本〜っ!何もわざわざあんな負け男」

その発言に合わせるかのようにチームメート達はブーイングをしている。

しかし山本は爽やかに笑うと先程反論した仲間の肩を組んだ。

「ケチケチすんなよ。俺が打たせなきゃいーんだろ?」

さすがの一年エースだけあって、山本の言葉には説得力があった。

「山本がそう言うんなら……ま、いっか」

最初は渋っていたチームメート達も、やがて納得して頷くとツナをチームに迎え入れた。

一方ツナはその事にどこか呆然としながらチームに入る。

(初めてだ……初めてジャンケン以外でチームに入れてもらえた)

ツナは信じられないといった面持ちで山本を見上げる。

「よろしくな、ツナ!」

爽やかに笑う山本に、ツナは戸惑いながらも頷いた。

「よ、よろしく山本!」


やはりというか、山本の運動神経は素晴らしかった。

ホームランをいくつも飛ばし、ゲーム終盤にはチームだけではなく授業を終えて見学しにきた女子達からも歓声を受けていた。

「ナイス山本!」

「さすが野球バカ!」

「ステキー!」

そんな歓声に山本は無邪気に笑って応えている。

山本のプレイにチームメート達が立ち上がって山本に駆け寄る中、ツナはチームベンチから皆の様子を眺めていた。

(ってか女子の中に死んだ人混じってる気がするのは気のせい……?)

ツナは少し苦笑いを浮かべながら女子の方をチラリと見る。

ハイテンションで黄色い声援を送っている女子達の中に、明らかに後ろが透けて見える女子がいた。

(学校ってイロイロ集まりやすいからな……まあ別に害のあるヒトじゃなさそうだしいっか)

放置を決めたツナは再び山本の方へ視線を戻した。

(山本って凄いよな〜……皆からの信頼も厚いし……)

俺もあんな風だったら


そこまで考えてツナは首を振った。

(考えてもしょうがないや)

諦めに近いため息を吐き出すと山本がこちらを振り向いた。

楽しそうにニカッと笑ってガッツポーズを作る山本にツナも笑って「ナイスプレイ!」と声をかける。


その時ガッツポーズを決めている山本の右腕に不自然に陰が入る。


「……また……?」

しかし陰はすぐに消え、視えなくなった。

ツナはすぐに女子の方へ目を向けるが、幽霊の彼女が何かをした様子はない。

「……何なんだろ……?」

ツナは嫌な予感に襲われた。

[*前へ][次へ#]

9/23ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!