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堕ちて混ざって笑いましょう
レモネード

ツナはボンヤリとした表情で窓から空を見上げる。冬の空は澄みわたっており、太陽が大地に優しい光を降り注いでいた。


ツナはセナの家の一階の窓のそばで、毛布にくるまって座っていた。


十数分前、ツナは沈んだ気持ちを何かで紛らしたくて、何ともなしにセナの部屋から一階へと降りていった。そこではセナ母が洗濯物を畳んでおり、ツナは早速手伝いを申し出る。

しかしセナ母は『そんなに気を使わなくて良いのに』と朗らかに笑うと、ツナを窓の近くの日当たりの良い場所に座らせ毛布を被せた。

「昨日より顔色良くなったみたいで良かったわ」

セナ母はそう言うとツナに笑いかける。

そんなセナ母を安心させたくて、ツナは笑みを浮かべようとしたが、頬がひきつり上手くいかなかった。

そんなツナをセナ母は少しの間見つめると、畳んでいる途中の洗濯物をそのままに台所へと向かった。

どうしたのだろうかとツナは首をかしげたが、深く探ろうとは思わず、ぼんやりと窓の外の空を見上げた。


結局ツナは当初の目的である気晴らしをすることができず、胸の中にはモヤモヤとした気持ちがくすぶる。

やはり大人しく寝てしまおうかと考えていると、背後から足音が聞こえてきた。

「綱吉君」

ツナが声に振り向くと、そこにはカップの二つ乗ったお盆を持ったセナ母がいた。

「レモネード、一緒に飲まない?」

セナ母はそう言うとツナの隣に座って、二人の間にお盆を置いた。

「綱吉君、レモネード嫌い?」

ぼんやり見上げてくるだけのツナに、セナ母は尋ねる。セナ母の言葉に我に帰ったツナは慌てて首を振った。そんなツナを見てセナ母は「良かった」と笑うと、ツナにカップを渡した。

「……おばさんね、ちょうど話し相手が欲しかったの。良かったら綱吉君少しお喋りに付き合ってくれない?」

突然の申し出にツナは驚いたようにまばたきをする。しかしすぐに我に返ると、ツナはゆっくり頷いた。



「…………だったのよ、あの子ったら……それから……」

セナ母は近所の井戸端会議よろしく、手のひらをヒラヒラさせながら色々な話を話す。

「……それでテレビつけてたらセナが映っててね、もう私ビックリしちゃったわ……それから……」

話の主な内容はセナの事だった。昔からよくまもりに助けられていたことや、勉強があまり得意ではないこと。飼い猫のピットに猫缶と間違えて蟹缶を与えてしまったときのこと。


そして母にも内緒で泥門デビルバッツのエースをやっていたことや、高校全国大会―――クリスマスボールを優勝したときのこと。


スポーツにあまり興味のなかったツナは、セナ母の話の中で昨日出逢った面々が実はアメフト界で超が付くほど有名な選手達だったことを知った。

(しかもセナさんがチームのエースだったなんて……)

純粋な尊敬や憧れの気持ちが胸から溢れる。

セナ母も話の中では「頭が悪い」やら「気が弱い」やらとセナの事を真っ二つに斬ってはいたが、終始楽しそうに笑顔で話していた。クリスマスボールの話の時には一番熱が入ってて、誇れる一人息子を自慢に思っているのが伝わってくる。

そんなセナ母につられたのか、やがてツナも聞きながら笑みを浮かべていた。



話を聞くうちにだんだんと生き生きとした表情を浮かべていくツナに、セナ母は笑みを深めた。

セナ母はツナの身体中につけられた数多の傷の事を、知りはしなかった。

しかしツナがどこか気落ちしているのを感じていた。寂しさのような憂いのような陰があるように感じていた。

(でも少し元気になったみたいで良かった)

セナ母はツナに優しく笑うとお盆の上に空になったカップを置いた。

「あらやだ私ったら……家事ほったらかしたままだったわ」

オホホ、と笑いながらセナ母はお盆を持って立ち上がる。

「お喋り……というか息子自慢に付き合わせちゃってごめんなさいね」

そう言ってセナ母はツナのもとを離れると、家事に戻った。そんなセナ母の背を、ツナの声が追いかける。


「あ、ありがとうございました!!」


それはレモネードに対してのことなのか、お喋りに対してのことなのかセナ母には分からなかったが、セナ母は振り返って「どういたしまして」と笑った。

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