堕ちて混ざって笑いましょう
痣
獄寺は差し伸べられた手を無視して立ち上がった。
青年は気にした様子もなく腕をおろす。
「……チッ……悪かったな」
それだけ言うと獄寺は青年の横をすり抜けてツナの家へと急いだ。
「……ここか……」
表札を確認した獄寺は肩から少しだけ力を抜いた。
何とか迷わずたどり着いたツナの家。実は初訪問となるため、獄寺は少し緊張した面持ちで呼び鈴を鳴らす。
しかし、いくら呼び鈴を鳴らしても反応は無かった。
「……?……留守……じゃねぇよな……?」
二階の窓から明かりが漏れている事を確認した獄寺は首をかしげた。
「ハッ……まさか中で倒れられているんじゃ……!?」
当たらずも遠からずな可能性に気付いた獄寺は慌てて扉に手をかけた。
鍵のかかっていない扉はすんなりと開き、獄寺を家内へと招き入れる。
「10代目!!」
獄寺はツナを呼びながら中へ入った。
二階の電気がついていたことを思いだし、慌てて階段を上っていく。
二階についた獄寺は、階段のすぐ近くにある、ドアが開いたままの部屋から電気の光が漏れている事に気付いた。
「10代目!!」
獄寺は部屋を覗き込む。
そしてすぐ、制服のままベッドに俯せに倒れているツナを発見した。
「10代目!10代目!!」
ツナを呼びながら獄寺は側へと駆け寄る。
慌てて呼吸しやすいようにツナの身体を仰向けに転がすと、額に手をやって熱を測った。
(……熱は出ておられないみてぇだな……)
獄寺はその事実にホッと胸を撫でおろす。
(お母様は外出中なのか……)
少し冷静になった頭で獄寺は今後どうすべきか考える。
そして立ち上がると、ツナの看病をするために台所へ向かった。
「とりあえず汗をかかれていたから……飲み水を用意して……あとタオル……」
看病など今まで一度もしたことがないため、勘で適当に用意する。
開いたままだった鍵も閉め、慣れないながらに考え付くものを用意すると獄寺は再び二階へ向かった。
今度はツナを起こさないよう獄寺はそっと部屋に入る。
お盆に乗せたタオルや氷、飲み水を勉強机に置くと、獄寺はベッドの隣に座った。
(……あ……10代目、制服のままで寝ておられるから……息苦しいんじゃ……?)
第一ボタンまできっちりと閉じられ、ネクタイまで閉められたワイシャツが気になり、獄寺は立ち上がる。
「失礼します、10代目」
聞こえているはずのないツナに礼儀正しくそう言うと、獄寺はネクタイを緩めた。
そして、第二ボタンまでボタンを外す。
「……え?」
ボタンを外した途端、獄寺は目を見開いた。
ワイシャツと髪で隠れてたツナの首に、はっきりとした痣がついていたのだ。
まるでツナの首を締めるかのように首に絡まる痣の形。
獄寺は思わずまじまじとそれを見て、今度は眉をひそめた。
「……手形……?」
その痣は、手形の形をしていた。
獄寺は眉間にシワを寄せ、一体誰が?と歯を食い縛りながらも冷静を保ち、ツナの首に手をかざす。
獄寺は自分の指と見比べるようにして手形の指を見た。
「……男の手じゃねぇな……細い……女の手形……」
手形の指は明らかに獄寺の指より細く、男のそれとは思えない。
だがこんな細い指の女が、相手の身体にここまではっきりと痣を残せる程力を持っているだろうか?
「何にしろ……10代目を襲った奴は俺が消してやる……!!」
獄寺は低くそう呟いた。
そして再度首の具合を見ようと痣に手を添える。
「!?」
獄寺が痣に触れた途端、突如信じられない事が起きた。
ツナの首に刻まれた痣が、一瞬にして霧散するように消えたのだ。
「……は?」
思わず獄寺はツナの首を確認するが、そこには痣の形跡は全く残っていない。
―――まるで最初からそんなもの無かったかのように。
「今……何が起きたんだ……?」
狐につままれたような気分になりながら、獄寺は呆然とツナを眺めていた。
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