堕ちて混ざって笑いましょう
過去夢
なんとか家にたどり着いたツナは、最後の力を振り絞って二階の自室に上がった。色々限界に達していたツナは倒れるようにベッドに横たわると、そのまま眠りについた。
『ねぇせんせい……あそこにいるおんなのこはだぁれ?』
『女の子?ツナくん、女の子なんてどこにもいないわよ?』
懐かしい夢を見る。
まだアヤカシと人間の区別をつけられなかった頃の夢。
まだ自分にしか見えない存在がいるとは思っていなかった頃の夢。
『あそこに尻尾が二つの猫がいるね。何て言う猫だろう……?』
『それってフタマタって言われる化け猫さんじゃないかしら?』
母である奈々は賢く、包容力のある女性だった。
ツナが普通ではない発言をしても、決して拒絶することをしなかった。
ツナの全てを受け入れた。
奈々は息子がイレギュラーな事を理解し、その上でツナに様々な事を言い含めた。
『良い、ツッ君?人はみんなそれぞれ違った物を持ってるの。例えば顔とか身長とか。でもね、時に自分と違いすぎる人間を嫌いになっちゃうことがあるの』
奈々はツナを守るためにツナに様々なものが『視える』事を秘密にさせた。
最初はツナは菜々の言っていることがよく分かっていなかった。
ただ、菜々が自分のために言ってくれているということだけは理解していたため、素直に母の言うことを聞いていた。
しかし明かせない秘密を抱えながら人付き合いするという器用な事が出来なかったツナは、誰とも友達になることが出来ないまま小学校で時を過ごした。
「しかもこの頃からアヤカシに襲われるようになって……いっぱいいっぱいだったから余計に、人付き合いする余裕なかったんだよな……」
夢の中で過去の記憶を眺めていたツナは小さく呟いた。
そんなツナの前には、中休みの時間に一人だけ教室に残って読書をしている昔の自分がいる。
教室の外からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「休み時間は苦痛だったな。自分が他の皆と違うってことを突き付けられている気がして……友達を作ろうとしなかったのは俺なのに……」
不意に周りの光景が変わる。
並盛小学校の教室は中学の教室に代わり、目の前にいる自分の姿も今の自分と同じになる。
弁当を机に広げて食べている自分のもとに、一人の少年が寄ってきた。
『10代目!!一緒に飯食って良いですか!?』
「獄寺君……」
夢の中の二人は一緒に昼御飯を食べた後、軽い雑談などをして昼休みの残りの時間を過ごしている。
「……獄寺君は俺にとって何なのかな……?」
ツナは獄寺にとって『ボス』という存在らしい。
では獄寺は……?
「獄寺君とは出会い頭に殺されかけて……和解して……翌日に二人で退学されかけて……でもなんとかなって……」
獄寺は自分の何なのか、それを考えながらツナは目の前に広がる昼休みの光景を眺めていた。
その頃本物の獄寺は全力で走っていた。
(確かこの先を左に曲がって……)
まだ慣れていない町でツナの家までのルートを頭の中に描きながら走っていた獄寺は、完全に前方が不注意になっていた。
「でっ」
曲がり角を曲がった瞬間に向かいからやって来た何かに思いっきりぶつかった。
獄寺は勢いよくぶつけた顔面を押さえて唸る。
「……大丈夫か?」
獄寺が見上げると、そこには学ランに身を包んだ長身の男が手を差しのべていた。
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