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堕ちて混ざって笑いましょう
アヤカシ


(ヤバイ……)

先生の退屈な講義が流れる中、黒板を写していたツナは突然顔色を青くさせた。

理由は唐突にやって来た背筋が凍るような寒気と、胸が苦しくなるほどの吐き気。


(……ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイヤバイ)


脳髄がツナに痛いくらいの警報を鳴らす。

ツナは自分のノートに向けていた視線をそおっと上にずらす。


先程まで誰もいなかったツナの机の前には、白い服を着た黒髪の女が立っていた。


女と目があったと思った瞬間、女は妖しくニタリと笑い、素早く首に指を絡め強い力を込める。


「こふっ……」

首を圧迫される苦しさに喉から咳が漏れる。

やっているはずの講義の声も、外から聞こえてくる体育の声も、周りの音が全て聞こえなくなった。

(……こういう時は……塩だ……塩で追い払わないと……)

酸素が足りず、朦朧とする頭で必死に現状打開策を考える。

息苦しさに顔を歪めて耐えながら、ツナはポケットに手を突っ込んだ。

すぐに目的の物は見つかり、ポケットの中から小さな小瓶を取り出す。

女に見えないよう机を目隠しにしながら、震える手で小瓶のコルクを抜き、中の塩を手のひらにまぶした。


(効いてくれ……!)


ツナは塩をまぶした両手で首に絡まる女の手を掴んだ。


【ギャアアアアア】


ツナにしか聞こえない耳障りな声が教室いっぱいに響き渡る。

女の手が塩により溶かされ、消滅した。

同時に圧迫されていた首も解放され、ツナは急な空気の流れに追い付けず背中を丸めて大きく咳き込む。

「がはっごほっゲホッ」

その間にも女は手から腕へ肩へとどんどん消滅していき、最後には完全に消え去った。

(……さ…すが……侑子さんの清めの塩……)

未だ咳をしながらもツナはグッタリと女が消滅した場所を眺めた。


「沢田、どうした大丈夫か?」


不意に聴覚が元に戻り最初に聞こえてきたのは、先程まで授業を行っていた教師だった。

「沢田、具合でも悪いのか?」

教師は心配そうにツナの方を見ている。

ツナが周りを見渡すと、先生だけではなくクラス中の誰もがツナに注目していた。

(あー……やっちゃった……)

突然授業中に大きく咳き込んだのだ。注目浴びない方がおかしい。

ツナは居心地悪そうに顔をしかめた。

(目立ちたくないのに……)

ツナは仕方ない、と心の中でため息を吐いた。

「……先生……なんか胸が苦しいので保健室行ってきます」

ツナは教師と目を合わせずにそう言うと、そのまま席を立ち上がる。

「分かった。このクラスの保健委員は誰だ?」

教師はツナに頷くと、付き添いに保健委員を呼ぶ。しかしツナは教師に首を振った。

「先生、大丈夫です。俺一人で行けます」

それだけ言うとツナは俯きがちな体勢で、そのまま教室から出ていった。



(このまま帰ろう……)

ツナは保健室には向かわず、昇降口までまっすぐ歩いていった。

つい先程まで邪気に当てられていたのと、尋常じゃない力で首を絞められていたのとで、ツナの足元は覚束ないが恐らくは家までもつだろう。

上履きを靴箱に入れ、外履きに履き替える。

(やっぱり増えた……しかも凶悪な奴ばっか……)

少し前まではこんな真っ昼間からアヤカシに襲われることなどなかった。

だというのに、最近では昼も夜も関係なくアヤカシが寄ってくる。

(一応魔除けの水晶身に付けてるのに……)

本来ならアヤカシが避けたがるはずの清浄な力。その力を込められた侑子譲りの水晶ですら、最近アヤカシ達を防ぎきれなくなっていた。

(……リボーンってもしかしなくても俺の死神……?)

笑えない冗談……というより、冗談で済んで欲しい現実を考えながらツナは渇いた笑みを浮かべていた。



三時間目と四時間目を屋上でタバコ吹かしながらサボっていた獄寺は、ツナと昼食をとろうと教室に帰ってきた。

しかし教室に入って中を見渡すがどこにもツナの姿はなく、獄寺は首をかしげる。

「おい、お前10代目知らないか?」

獄寺はツナの居場所を近くにいたクラスメイトに尋ねる。

「10代目?」

首をかしげるクラスメイトに獄寺は「沢田さんのことだ」と説明する。

「ああ、沢田?あいつ三時間目に具合悪くして保健室行ったぜ」

その事実に獄寺は目を見開く。

(朝お会いしたときは元気そうに笑っていらしたのに……!)

獄寺は朝会ったにも関わらず自分がボスの体調不良に気付けなかったという事に深く後悔する。

「くそっ……俺としたことが……!今すぐ保健室の場所案内しやがれ!!」
獄寺は慌ててクラスメイトに道案内をさせて保健室へ向かった。



「え?来てない?」

駆け足どころか全力ダッシュで保健室にやってきた獄寺は養護教諭の言葉に眉を潜めた。

「どういうことだ……?」

まさか辿り着けずにどこかで倒れてしまったのか?と一瞬考えるが直ぐに首を振る。

教室からここまで来る際誰も廊下には倒れていなかった。

ならば何故?と首をかしげていると、獄寺の隣で道案内をしたクラスメイト達が声を上げた。

「あいつまさかまた保健室エスケープか?」

「マジで?あの咳とか全部演技」

「心配して損したわ〜」

それぞれため息を吐くと、そのままクラスメイト達はその場から去っていった。

獄寺はそんな彼らを目の端で見送りながら、ツナの行方を考えていた。

(……体調が芳しくなく帰られた……ってのが一番妥当か……)

獄寺は一度教室に戻ると、自分の鞄とツナの鞄とを持って学校を出た。


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