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堕ちて混ざって笑いましょう
家庭教師


「聞いてくださいよ、侑子さん!今日体育でサッカーだったんですよ、サッカー!予想通りチーム分け俺だけハブられるし……」

「あらら。ツナ体育苦手だものね」

「なんで教師もチームプレー物をやらせるんですかね!?俺みたいな奴の気持ち分かってないですよ!!」

「わかってないー」
「気持ちわかってないー」

「結局負けたの俺のせいにされて後片付け全部押し付けられるし……」

「それは災難だったわね……でも……」

「?」

「明日はもっと大変な思いをする事が起きそうよ」

「え゛……侑子さんが言うとシャレにならないんですが……」

「シャレじゃないもの。まあ、頑張ってね」

「丸投げ!?」



そんな会話をしたのがちょうど一日前。

そして今、侑子さんの言葉は間違ってなかったと確信している。

だって目の前にスーツ着込んで華麗な二足歩行こなしてる不可思議な赤ん坊がいるんだもん。


「ちゃおっス。三時間早く来ちまったが特別に見てやるぞ」


とりあえずこの赤ん坊は一体誰ですか。

そんなこと思ってたら母さんも同じ疑問を持ったようで、赤ん坊に声をかける。

母さんにも視えてるってことはアヤカシとか妖怪の線はないな、良かった。


「俺は家庭教師のリボーン」


……そうですか。
家庭教師ですか。

この出来事には爆笑するのも仕方ないですよね?

うん、笑おう。

アハハハハ


「ほむっ!!」


すみません、仕方なくなかったです。

ってか何が起きた今?

蹴られた?

気絶するってくらいの強い力で腹蹴られた?

赤ん坊に?

……こいつ妖怪なんじゃねえの!?


そこまで考えてツナは自分の意識を手放した。


「……それで実はツナはマフィアボンゴレの10代目ボス候補で、リボーン君はツナをボンゴレのボスにするためにきた家庭教師だったってことね」

「いやいや、俺まだ何も言ってないんですけど」

ツナはいつものように部屋を掃除しながら侑子にツッコミを入れる。

「やっぱり知ってたんですね、侑子さん」

そう言うと侑子は妖艶に笑みを浮かべる。

「私達みたいな稼業の者にとってもボンゴレは特別だからね」

「……だったら教えてくれても良かったのに」

しかし、ツナも侑子がそういう人間だと分かっていたため、それ以上は言わなかった。

「……それより、あの死ぬ気弾ってなんなんですかね」

ツナはたった二日の間に二回も自分の額に穴を開けてくれた弾丸のことを思い出す。

「……侑子さんにしてもらった封印……死ぬ気の間だけ解けちゃったんですよ……」

そう言うと、侑子はああ、と声を上げる。

「あの弾はそういう力を持っているのよ。封印されていようといまいと、撃たれた人間の持つ能力をフルに引き出す力をね……それはある種の摂理だから、残念だけど私にはどうしようも出来ないわ」

それを聞いたツナは落胆したように項垂れた。

「そうですか……あーこれでまたアヤカシが寄ってきやすくなった……」


アヤカシは『力』に惹かれる。それは魔力も然り、霊力も然り。


―――そして、『大空の力』も然り


霊力と大空両方を持つツナは、アヤカシに常に狙われていた。

そのためツナが侑子に頼んで真っ先にしてもらったことが、『大空の力の封印』だった。


霊力を封印することは出来ない。霊力を封印すれば、自分を襲ってくるアヤカシを視る事が出来なくなってしまうからだ。それは危険すぎる。

しかし、大空の力ならば封印しても何ら問題はなかった。大空の力はあってもなくても平和に生きていく上でさして関係しない。ツナにとってはむしろアヤカシを惹き付けるお荷物でしかない存在だった。

そのため根本である霊力を侑子に消し去ってもらうその時まで、ツナは大空の力を封印して貰った。

だが、全くのノーリスクだったわけではない。

大空の力を封印するとき、ツナは持っていた学力と体力のほとんどを一緒に封印することとなったからだ。


理由は簡単。

それが対価だったから。


それからツナはダメツナとしての日々を送ることとなってしまったが、本人は一度も後悔したことはなかった。

学力も体力も、生きていてこその物種。アヤカシに喰われて死ぬより、ダメツナとして生きている方が何億倍もマシというものだ。

そう考えていたからである。


(そう……考えてたっていうのに……!)


せっかく侑子に力を封印して貰ったというのに、あんな風に引き出させられたら、アヤカシに目をつけられる可能性がぐっと上がってしまうではないか。

せっかく今までバイト頑張って来たっていうのに、目を付けられたあげく、喰われて死ぬなんて笑えない。

そのため多少バイト代を払っても良いから、侑子に封印の強化をしてもらおうかと考えていたのだが、それも不可能と分かった今、ツナはこれ以上ないくらい気落ちしていた。

「ああー喰われたくない……」

「マフィアのボスの方は良いの?」

「良くないですが……今とりあえずマフィアよりもアヤカシのが怖い……です……」

はたきを片手に肩を落としているツナに、侑子は薄く笑って言った。

「安心なさい。ツナの『顔』はそう悪くは出てないわ。まあ……今までよりは危ない目にも遭うかもしれないけれど……ツナなら大丈夫よ」

不安なら『無敵の呪文』でも唱えておきなさい。

そう言って侑子は部屋から出ていく。

ツナはそれをぼんやり見ながら、『無敵の呪文』を口の中で繰り返した。



「……『絶対大丈夫』『絶対大丈夫』『絶対大丈夫』……大丈夫であってくれ……」

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