堕ちて混ざって笑いましょう 天使との出逢い 町にはそれぞれ逆らってはならない人がいる。 例えば並盛の雲雀。 例えば泥門の蛭魔。 逆らえば死より恐ろしい目に遭うとさえ囁かれる、それぞれの町の恐怖の権化。 言わば、町の秩序。 知らない町に行くときはご用心。 その町の秩序を知らないということは、何より危険で恐ろしい事なのですから。 (ここ……どこだろ……) 気付いたら知らない場所にいた。 自分がどこをどう歩いてきたのか思い出せない。 だが今のツナにとって、ここはどこかとか、そんなことはどうでも良かった。 ただひたすら、誰にも見つからない場所に行きたかった。 (……疲れた……) 途方もない疲労感。 身体中がズキズキと痛み、頭は重くてだるい。 何かを考えることすら億劫だった。 不意に、視界が不自然に傾く。 自分が倒れようとしていることに気付くが、ツナは抵抗しなかった。 抵抗するほどの気力を、ツナは持っていなかった。 −−−−トンッ 何かにぶつかる軽い音が響き、肩に暖かい温度を感じる。 ぼんやりと上を見上げると、茶髪に青い瞳の優しい顔立ちの女性と目があった。 そこでやっと、ツナは自分がその女性に支えられている事を悟る。 「すみませ……」 声を振り絞り、ツナは弱々しく謝罪する。 喉が詰まり、最後まで言うことができなかった。 しかし女性はさして気にした様子もなく、ツナの顔を覗き込んだ。 「どうしたの?具合悪いみたいだけど……」 ツナは自分を心配するその言葉や瞳に、自分が今いるところが並盛ではないことを改めて実感する。 それにどこか安堵しながら、ゆっくりと首を振った。 しかし女性は納得していないという表情を浮かべる。 「お家はどこ?送っていくから……」 女性が『家』という単語を言った途端、ツナは拒絶するかのようにガタガタと体を震わせる。 「大丈夫です……大丈夫ですから……」 それじゃあ、とツナは方向転換して走り出そうとしたが、女性はそれを許さなかった。 「家に帰りたくないの?」 ツナは女性の質問に答えられず、沈黙する。 女性は困ったように眉を下げたが、やがて決心したようにツナの前へ回った。 「……わかったわ。とりあえず休めるところに行きましょう」 聖母のように優しく微笑む女性に、ツナは思わず言われるままに頷き、ついていった。 −−−これが大空と悪魔が交わるきっかけ−−− [次へ#] |