Material 魔法×海賊 5 私は歩きながら、やはり一人でここの人達の記憶を全部処理するのは無謀だったわね、と反省した。結局誰一人の記憶を弄ることは出来なかったし、私は杖を取り上げられてしまった。 杖がなければ魔女もただの小娘だ。 私は倉庫らしき部屋に連れていかれ、片腕を手錠で繋がれていた。いわゆる監禁状態だ。 「ホントに乱暴でごめんな」 監視役のサッチが謝ってくるが、彼も心の底から悪いと思ってはいないのだろう。 だって彼も海賊だ。 「……いいのよ、気にしてないわ。だって貴方達は海賊なんだもの」 それでも、手首に布を巻いて手錠で擦れないようにしてくれるあたり、彼は死喰い人に比べればよっぽど紳士だと思う。 そんなことより、杖をとられてこれからどうしようか……と溜め息をつく。 「ハーマイオニーは空間か何かを操る能力者なのか?」 唐突に投げ掛けられた質問に、しかし答えることはできなかった。 あれだけ魔法を見られた今、魔法を能力とするなら『能力者』の言葉を完全に否定することは出来ないし、だからといって肯定出来るものでもなかった。 「……」 よって、黙秘権を施行してみる。そんな私にサッチは困ったように笑うだけだ。 「……杖で戦うなんて、まるで魔女みたいだな」 溢すように呟かれた言葉―――きっと彼にとっては冗談のつもりだったのだろうけど―――に思わず体を強張らせてしまう。 サッチはそれを見逃してはくれなかった。 「え……マジ、で?」 今黙ったままでいるのは肯定しているようなものだ。それは分かっていたが、良い言い訳や誤魔化しが思い浮かばない。元々、私もそういうのが得意ではない。 「それより、早くここから出してくれないかしら」 無理矢理話題を変えるのが、私には精一杯だった。 「ごめんな、それはまだ出来ないんだ」 困ったように首を振られる。もちろん期待なんてしていなかったから、ガッカリすることもないが……話題を戻さないでくれたことにホッとする。 「海賊船だなんて……酷い冗談だと思ったのに」 溜め息混じりにそう呟けば、サッチは心外だと言わんばかりに眉を寄せた。 「そりゃ酷いな。俺達は命を懸けて海賊やってんだぜ?」 「だって私のいたところは……確かに過去に海賊はいたけれど……今は存在しないんですもの」 そう言うと、サッチは今度は驚いたように目を見開いた。 「……そうなのか?」 「私の知る限りでは、そうよ」 私が頷けば、サッチは考えるように視線を上げ、首の後ろを掻く。 「うーん……今は大海賊時代で、どこの海にも海賊がひしめいてるってのが俺達の常識なんだけどな」 やっぱり、私の常識は通じない。 これが文化レベルの行き違いなら、遠い国に来てしまったのかもしれないと思うが、この船の人達と私は世界レベルで常識が違っている 私はもう1つの結論を導きだしていた。 「多分、ここは私にとって異世界なのよ」 「?」 小さく呟いた、突拍子のない言葉にサッチは首をかしげる。しかしそんなことには構っていられなくて、私は膝に顔を埋めた。 「私……きっと異世界に来てしまったんだわ」 喉から絞り出した声は、まるで私の心を表すカのように、細く震えていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |