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novel
どんな君でも

突然ですが、俺は二重人格です。


小さい頃……というか物心つくころから、俺は二重人格だった。

もう一人の俺曰く、主人格は俺……らしい?

よく分かんないけど、彼の言うように、俺は人格交代の権限を握っている。

とは言え、交代したいと彼が言ったら大体交代してるから、あまり意味がないのだけど。


彼は不思議な人だった。

性格は俺とあまり変わりない。

もう一人の俺の方がヤンキーかな〜、くらい。

だが、俺と同じ人生を歩んでいるはずなのに、俺より難しい言葉を沢山知っている。

何故か室町のマニアックな文化背景に詳しい。

火薬にもなんだか詳しい。

そして何より解せないのは……骨董品の鋏を使うと俺より格段に上手く髪をセットすることが出来る。

……解せない。

だから俺は、これらの疑問を全部彼にぶつける事にした。

すると彼は笑ってこう答えた。


「俺達は室町時代にも生きてたんだ」


そして彼は語り始める。髪結いでありながら忍者としても生きた彼の……否、俺達の人生を。


「俺達は室町で忍者の学校に通ってたんだ。留年したりなんだりで大変だったけど……楽しかった」


彼は懐かしそうに言葉を紡ぐ。

俺はなんだか切なくなった。

「俺達の仲間がこの世界に……現世に生まれ変わってると良いね」

そう言うと彼はそうだね、と笑ってくれた。

それから彼は沢山の話をしてくれた。

彼が髪結いとして生きてきた15年間の話。

忍びの家系だと知り、辻刈りを始めた話。

忍術学園のみんなと出会い、学園へ編入した話。

個性的な同級生達の話。

五歳も離れた一年生達に混じって授業を受けた話。

学園の委員会で火薬を管理した話。

豆腐が大好きな歳下の先輩の話。

予算会議で失敗して委員会に多大な迷惑をかけてしまった話。


抜け忍として命を狙われた話。


殺伐とした時代であるはずなのに、彼の話にはどれも温もりがあった。

現代人が忘れてしまった暖かさがそこにあった。

俺はそんな暖かい記憶を持っている彼が少しだけ、羨ましかった。

そして彼の言う彼の仲間達と、会ってみたくなった。


彼の話を聞いてから俺達は、度々仲間を探すようになった。

プリンの美味しい喫茶店に行ったり、

ドーナッツ屋を巡ってみたり、

かやくご飯のあるお食事処を訪ねたり、

豆腐屋を覗いてみたり、

布屋を探したり、

漁業市場へ向かってみたり……

休日になる度に、大切な仲間達のゆかりのありそうな場所を練り歩いた。


そうまでしても、俺達は誰一人見付けることができなかった。


「本当は……生まれ変わってないのかな……」

彼はある日ポツリとそう溢した。

俺は、何も言えずに彼の言葉に耳を傾ける。

「それか……全くの別人になっちゃったのかな……記憶なんて欠片も持たないで生まれてきたのかな……」

寂しそうに彼は言う。

俺は、そんな彼に笑ってみせた。

「でも……俺は君の『仲間達』と会ってみたい。話してみたい。君だって……例えどんな彼等でも、会いたいんでしょ?」

そう聞くと、彼は「そんなの当たり前だ!」と力強く答えた。

「だったらさ、悩んでても始まらないよ。行動行動!」

そう言って俺は携帯を開き、近くに仲間達にゆかりありそうな店がないか検索した。

「例え俺みたいに何にも覚えてなくったって、また1から友達になればいいんだよ!」

今の俺達みたいにね!

それを聞いた彼が小さく笑い声をあげた。

「そう……だよな!そうだよ!もう一人の俺の言う通りだ!!」

そして俺達はまた、仲間探しを再開する。

再び逢えることを信じて。

「あ!ここ、豆腐料理専門店だって!!」



どんな仲間なのか今から楽しみで

―――どんな君でも探し出してみせるから、


もしも俺も君と出逢うことが出来るなら

―――もしも君と出逢える事があったなら


『俺達』と友達になってくれると嬉しいなあ

―――また『俺達』の仲間になって欲しい

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