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novel
どんな形でも

小さい頃から三人一組。

俺達はいつも一緒にいた。


小さい頃から俺は方向音痴二人の世話をしていた。

二人はすぐにいなくなるから、見つけないと。

物心つくときから俺はそう感じていた。


ある日、不思議な事が起きた。


「さもん……さんのすけ……またふたりでまいごになって……」

いつものように、二人を叱りながら幼稚園の先生の元へと引きずっていく。

「すまん、さくべえ」

左門が俺に謝った。

「おれはまいごじゃないぜ?」

三之助がいつものようにとぼけた。

俺は二人の間でため息を吐いた。


「おめぇらはいつもいつも……まあでも……きょうは『うらうらやま』までいかなくてよかった……」

あそこはさがすのたいへんだからな。


何気無く呟いた言葉。

しかし二人は首をかしげた。

「さくべえ、うらうらやまとはどこだ?」

「おれたちしらねぇぜ?そんなやま」

二人の発言に俺は眉をひそめる。

「なにいってやがる。いっつも『うらうらやま』でまいごになってんじゃねぇかよ」

しかし二人は首を振る。

二人はふざけた様子はなく、至って真面目。

俺は急に背筋が冷えた。


―――俺の持つ記憶と二人の持つ記憶とが、食い違っていると気付くのはそれから間もなく―――


気付いてしまってからは、ただパニックだった。


どうして二人は『うらうらやま』を知らない?

どうして二人は『けませんぱいたち』を知らない?

どうして二人は『にんじゅつがくえん』を知らない?

二人もあの場にいたじゃないか。

二人もあそこで学んだじゃないか。

二人も一緒に強くなったじゃないか。


そして再び首をかしげる。

そういえば何故記憶の中の二人より、目の前にいる二人の方が幼いのだろうか……と。


訳がわからず廊下の隅で頭を抱えていると、『しょくいんしつ』にいる『せんせい』達の声が聞こえてきた。


「明日は桃組担当、か……。桃組の作兵衛君、私少し苦手なのよね……」

「ああ、妙に大人びた……」

「そうそう。……なんか突然変なこと言い出すし……『戦』だとか『暗殺』だとか」

「『忍び』や『忍術学園』とかもよく言ってますよね」

「なんだか子供に合わない言葉ばかりで……少し怖くって」

「えー?ただのアニメの影響とかじゃないですかぁ?ほら、小さい子にありがちな妄想ですよー」


俺はそこまで聞いていてもたってもいられなくなりその場を離れた。

全速力で広場を駆け抜ける。

左門と三之助が声をかけてきたがそれも無視して走り続けた。


―――まるで逃げるように走り続けた。


木の陰に隠れると見つからないように気配を消す。

俺はそこで息を整えると自分の小さな身体を抱き締めていた。


『小さい子にありがちな妄想ですよー』

『妄想ですよー』


『せんせい』の言葉が頭に反響する。

俺はそれを振り払うかのように首を振った。

「妄想なんかじゃない……!」



「結局バラバラになっちまったな」

三之助が残念そうに口を尖らせた。

そんな三之助に呆れたようにため息を吐く。

「仕方ねぇだろ。お前ら俺の行く高校に落ちちまったんだから」

そう言うと左門はしゃがみこみ、頭を抱えるようにした。

「あああああ!あと二問で合格点数だったのに……!!」

そんな左門に俺は苦笑した。

「ま、高校違くても会えんだからよ。そう落ち込むなよ」

心底残念そうにする二人の頭を軽く叩いて俺はニヤリと笑ってやった。

そうすると、二人も少し眉を下げながら、それでもニヤリと返してくれる。

(わりぃ)

俺は心の中で二人に謝罪した。



本当はちっとも仕方なくなんてなかった。

俺はわざと、二人が合格できないギリギリの私立校を選んだんだ。

しかも直前までは二人と同じ公立に進むフリをしてまでの周到さ。

こんなときばっかり器用な自分に自分でも呆れてしまう。

(でも……これ以上は無理だ……)

今まで9年以上もの間、俺は耐えてきた。

自分しか知らない記憶に。

二人の知らない思い出に。

心を共有出来ない寂しさに。

(これ以上は耐えられない……!!)

苦しかった。

辛かった。

寂しかった。

心の中に嫌な感情が渦巻いて、

胸のあたりが締め付けられて、

このままじゃ二人が好きなのに嫌いになりそうで。

二人を俺が拒絶しそうで。

だから距離をおくことにした。

一度離れることにした。

一度離れて、負の感情を全部昇華して、消化して。
そして俺の中で、わけわからないもの全部に決着をつけたかったんだ。

二人といるのが嫌になる前に……



―――この選択は間違っていなかった。


―――俺は高校での孫兵との出逢いによって、自分の中の記憶の正体を知ったんだ。


―――ただこれは……知って納得出来る簡単なものではなかったけれど。


―――でもいつか、必ず決着をつけるから。

―――いつかまた、お前らと心から笑い合える日が来るよう頑張るから。

―――だからあと少しだけ二人で待っててくれ。


―――ごめんな、二人とも


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