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novel
どんな姿でも


僕は昔から、週に二三回無性に懐かしく感じる夢を見る。

森の夢。

戦の夢。

獣の夢。

いろんな夢。


これらのどの夢でも、

大体僕はいわゆる忍者の格好をしていて、

大体僕の肩には赤い蛇が乗っていた。


懐かしいと感じるけれど、僕は別に忍者のコスプレをしたことも、赤い蛇を飼っていたこともない。

夢の中での体験を、過去にしていたわけではない。

というか、まずそもそも夢の舞台が室町とか戦国とかそのあたりの時代だ。

体験しようがない。

でも、なんだか懐かしいんだ。



しばらくして、僕はこれらの夢が妄想ではなく前世なのではないかと思い始めた。

そう思い始めたのは、中学校で歴史を詳しく習うようになってから。

僕の夢の精巧性を知ってから。

まさかとは思ったけど、それしか考えられなかった。


その仮定が本当だと確信したのは、高校に入ってから。

夢に出てくる登場人物の中の一人が、自分と同様に『夢の記憶』を持って存在していると知ったときから。

そいつの名前は、富松作兵衛。

僕達は会って、話をして、自分達が前世の記憶を持って生まれたということを確信した。


「どうして俺らだけなんだろうな……?」

この前作兵衛はそう言ってため息を吐いていた。

僕は会ったことがないが、彼が前世で仲の良かった次屋と神崎も彼の幼なじみとして転生しているらしい。

―――ただし、記憶を持たないで

小中の9年間それで辛い想いをしたため、少し無理して二人とは違う高校に進学したのだと作兵衛は言っていた。


僕らは前世ではそこまで仲が良かった訳ではないが、今生では親友のように仲良くなった。

同じ悩みを持っている……というのもあるが、元々反りが合う性格だったのもある。

作兵衛は前世を思い出し、時折寂しそうな表情をすることがあったが、僕は僕の悩みを共有してくれる仲間がいた事に満足していた。

次屋や神崎が記憶を持っていないのは、仕方ないんだと割り切れた。

浦風や三反田と会えないのは仕方ないんだと割り切れた。


割り切れたが……気掛かりなことはあった。

それは……相棒のように常に共にあった彼女の存在。

赤く美しい蛇、ジュンコ。


彼女が今自分の側にいないのは仕方ない。

それは次屋や神崎達と同じだ。

でも今の時代、世界は蛇には息苦しい世界となってしまった。

森はない。

水は汚れている。

捕らえられ、見せ物にされる可能性もある。

「いや、動物園に行くくらいならまだマシか……」

毒を持つような危険な存在は下手をすれば殺されるのだから。

今この世界は人を中心に動いているのだ。

「……もし生まれ変わっているなら、幸せと感じていて欲しい」

それがどんな形でも。

それが自分の側ではなくても。


賢い彼女だ、なんだかんだ器用に生きていると信じたい。

だが不安を感じて作兵衛を連れてペットショップを回ることも少なくなかった。


―――そんなある日の事―――


「作兵衛……骨折ってお前……」

僕は喧嘩に巻き込まれて骨折したらしい友人の見舞いに来ていた。

「大丈夫!これやってくれた野郎はその場で取っ捕まえて医療費込みで慰謝料ふんだくったから!」

「片足骨折した状態で相手取り押さえたの!?」

相変わらずの捕獲能力に苦笑がこぼれる。

「ま、元気そうで良かったよ。花瓶の水変えてくるな」

少し元気を失っている花が目に入り、それを手に病室を出ようとする。

「ちょっ、まっ……!俺も行く!!」

転生したことでか、多少寂しがり屋な性格になった作兵衛は慌てて松葉杖をついて寄ってきた。

「転ぶなよ」

そう言って僕は歩く速度を落とした。

作兵衛の部屋から水道のある所まではそんなに離れてはおらず、すぐに着く。

「ん?」

水道には先客がいた。

僕らと同じように花瓶を抱えた、赤毛の美しい少女。

病院服を着ているから恐らく患者なのだろう。

彼女も僕らに気づいてこちらを振り向いた。


「……ジュンコ?」


思わず口をついて出た名前。

直後、作兵衛に脇を突かれて我に返った。

そして自分で自分に驚いた。

何故今彼女の名が?と思い、すぐに答えはわかった。

一瞬彼女と少女の姿が重なったのだ。

正確には、長い前髪の中に光る金の瞳が。

(僕も作兵衛の事言えないな……)

人と蛇を見間違えるなんて。

そう思っていたら、少女がこちらに近付いてきた。

少女は花瓶を床に置くと、僕のすぐ前まで寄ってくる。

「あ、ごめん。人違いして……」

慌てて謝ると、少女は無表情のまま首を横に振った。

意図が読み取れなくて、思わず首をかしげる。


少女は口を開いた。


そして音もなく口は形を紡ぐ。


『じゅんこだよ、まごへい、さくべえ』


隣で作兵衛が息を飲んだ。

僕はまじまじと少女を見つめた。

赤毛の美しい髪

つり目気味の金の瞳

細長い体


僕は少女の手に触れた。

少女の指は少し低温気味で、そんなところまで同じで、

少女は優しく巻き付くように僕の手を握った。

そしてまた、少女は口を開く。

『やっとあえたね』


「……うん……人になってたなんて思わなかったよ……ジュンコ」


気付けば僕は少女―――ジュンコを抱き締めていた。



―――僕は前世で誰よりも愛した彼女と再会した―――


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あきゅろす。
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