novel
帰宅、それぞれの日常へ
団子も食べ終わり、一息ついた頃。留三郎と山ぶ鬼は席を立った。
山ぶ鬼が財布を出そうとすると、留三郎が緩くその手を制した。
「俺が払うから」
山ぶ鬼は一瞬呆けた後、慌てて首を振った。
「悪いですよ!」
しかし留三郎は笑いながら「良いよ」と言う。なおも食い下がろうとした山ぶ鬼の頭に留三郎は軽く手を置いた。
「俺を女にお茶代払わせるような男にしてくれるなよ」
そう言われてしまってはこれ以上食い下がる訳にもいかず、山ぶ鬼はちょっと困った顔をしつつも奢ってもらうことにした。
その後二人は町外れまで添って歩く。
「あ、私こっちなので」
山ぶ鬼はそう言ってドクタケ教室のある方を指差す。その方向が忍術学園とは逆方向であるということは乱太郎達との付き合いの中で知っていた。
「送っていこうか?」
尋ねる留三郎に山ぶ鬼は首を振る。
「まだ明るいので大丈夫です。……それに、今日は校長先生が来ますから」
ドクタケと忍術学園が不仲であることは山ぶ鬼もよく知っている。
ドクタケ忍者隊の頭であり、ドクタケ忍者教室の校長でもある八方斎が忍術学園の六年生の顔を見て良い顔するはずがない。
そう言うと留三郎はそれなら仕方ないと眉をハの字にして笑った。
「じゃあな。道中気をつけろよ」
そう言う留三郎に山ぶ鬼はお辞儀する。
「お団子、ありがとうございました。そちらもお気をつけて」
そして二人は背を向け、それぞれの帰路を辿った。
「あ、おかえり留三郎」
忍たま長屋の自室に戻ると同室の伊作が薬を煎じていた。
「ただいま。ほら、土産」
そう言って留三郎は委員会の分のついでに買った団子を差し出す。
「わあ!ありがとう!」
伊作は薬を煎じる手を一旦止めて留三郎の差し出す団子を受け取った。
「薬の方も一段落したし、早速いただこうかな」
伊作は手ぬぐいで手を吹きながらニコニコとそう言った。
その間に留三郎は二人分の湯飲みと急須を持ってくる。
「薬煎じるのに使ってるお湯、少し貰って良いか?」
そう尋ねると、伊作は快く承諾する。留三郎は慣れた手つきで二人分の茶を煎れると、自分の湯飲みを手にとった。
「あ、その団子、全部一人で食って良いからな」
そう言って茶を啜る留三郎に、伊作は驚いたような表情で声をあげた。
「ええ?だって今回留さん委員会のおやつ買いに一人で町に行ったんじゃなかったっけ!?」
もしかして一人寂しくお団子食べてたの?
ちょっと憐れみに満ちた目を向けてきた伊作の頭を留三郎は軽くどつく。
「ドクタマの子―――山ぶ鬼とたまたま会ったんだよ」
「ああ、前に医務室に来てた……」
伊作は山ぶ鬼という少女をぼんやりと思い出しながら団子を口に運ぶ。
「紅屋で見かけてな。そのまま茶屋に入ったんだ」
そう言って目を細めて笑う留三郎に伊作は眉間にシワを寄せた。
「……幼女をナンパ……!」
「違ぇよ」
小気味良い音と共に伊作の頭にたんこぶがこさえられた。
「どくたま山ぶ鬼、只今帰りました」
山ぶ鬼が戸の前で名乗り上げると戸が静かに開いた。
「おかえり、山ぶ鬼」
出迎えたのは彼女にとっては校長であり未来の上司であるドクタケ忍者隊首領の稗田八方斎だった。
「わざわざお出迎え頂きありがとうございます、校長先生」
そう言って山ぶ鬼は頭を下げる。
八方斎はそんな山ぶ鬼の頭を優しく撫でて笑った。
「礼を弁えていて大変宜しい。山ぶ鬼は良いくの一になれるぞ!これも魔界之先生と黒戸先生の教育の賜物だな」
校長先生に誉められて山ぶ鬼は少し顔を綻ばせると、八方斎に礼を言った。
「ありがとうございます、校長先生!」
その後山ぶ鬼は八方斎と別れると、どくたまの皆のいる教室に向かう。
「あ、山ぶ鬼おかえりー」
「おかえり山ぶ鬼!」
「山ぶ鬼お疲れー」
山ぶ鬼が教室に入ると、しぶ鬼、いぶ鬼、ふぶ鬼の三人がそれを出迎えた。
「ただいまー」
山ぶ鬼も笑顔で三人の中に入る。
「あれ?なんか良いことあった?」
いぶ鬼が何かに気づいたように首をかしげた。
いぶ鬼につられてしぶ鬼とふぶ鬼も首をかしげる。
そんな三人に山ぶ鬼は小さく笑った。
「さっき校長先生に誉められたのよ。私、良いくの一になれるって!それから……」
忍たまの留三郎さんとお茶をしたの。
しかし最後まで言わずに山ぶ鬼は口をつぐんだ。
「「「それから?」」」
三人が続きを促すが、山ぶ鬼は首を振った。
「何でもないわ。それより三人とも、宿題終わった?」
山ぶ鬼は自分がおつかいに行っている間に出されたはずの宿題を三人に問う。
「それが……聞いてよ山ぶ鬼〜!!」
こうして緑と紅の卵は日常へと帰っていく
(山ぶ鬼……とてもいい子だったな)
(留三郎さん……優しかったなあ……また会ったらお話したいなあ……)
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!