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novel
どんな時でも1

朝、小鳥のさえずりに起こされて僕は布団から起き上がった。

寝ぼけ眼を擦りながらリビングへ行くと、そこにはすでに朝食が用意されていて、ルームメイトがパンをかじっていた。

「おはよ〜藤内……」

「おはよ、数馬」

僕は席に座ると藤内が用意してくれた朝食を前に手を合わせる。

「いただきまーす」

パンに柚子ジャムとバターを塗り、かぶりつく。

柚子独特の香りが口の中に広がった。

「今日藤内、関東大会の決勝だよね?」

「うん」

応援行くね、と言うと、藤内は「ありがとう」と笑った。

僕はテレビのリモコンに手を伸ばす。テレビを付けるとちょうど朝の占いコーナーだった。

僕の順位は……最下位。こういうのってたまたま見たときに限って順位低いのは僕だけだろうか?

いや、この広い世界だ。きっと後四人くらいはいるはずだ……多分。

因みにメッセージは……『初対面の人とのコミュニケーションに気をつけなさい』……か。

今日何か新しい出逢いでもあるのだろうか?

まあ所詮お遊びの占いだし、と気にしない事にして僕は煎れたてのコーヒーを飲んだ。


試合場である市立体育館へ行くと、そこには見知った友人の姿があった。

「左門!三之助!」

驚いて声をかけると向こうも驚いたように勢いよくこちらを振り返った。

「「数馬!!」」

二人に駆け寄ると、二人は満面の笑顔で迎えてくれた。

二人は僕と藤内と同じ公立高校に通っていて、二人が迷子になっているのを助けたのがきっかけで仲良くなった。

「二人もバスケ部の応援に?」

そう聞くと左門が元気よく返事をした。

「うむ!藤内が出ると聞いたからな!!」

二人だけでよく辿り着けたね、と笑って言えば、二人は軽く胸を張った。

「今日は決勝戦だからな!見逃してはいけないと思って早めに家を出たのだ!」

「なんと朝の4時に待ち合わせ!……なのに都立体育館の場所移動してんだもん」

困るよなぁ、とブーたれる三之助に思わず乾いた笑みを浮かべてしまった。体育館がそう簡単に移動するはずないというのに……無自覚とはなんとも恐ろしいものである。

「……って朝の4時ぃ!?」

常識はずれな待ち合わせ時間に思わず声をあげる。ちなみに今の時間は9時半、試合開始は10時である。

「ってことはもしかしなくても辿り着くまでに迷子になったんだね……とかそういうのは置いといて、ダメだよ二人とも!睡眠不足は健康の敵!免疫力が低下しちゃうじゃない!!」

睡眠不足の危険性を訴えると、左門と三之助は少しシュンとして謝った。聞き分けは良いようだ。

理由が理由なので僕もそれ以上起こるのはやめにした。

「……今度は僕と一緒に待ち合わせしようね」

そう言うと左門がパァッと表情を明るくした。三之助も分かりにくいが、先程とは変わって穏やかな表情となる。

「それならば迷わず会場に着くな!」

「ありがとな、数馬。全く……左門の迷子には困ったもんだな」

やれやれと肩をすくめる三之助に、僕は左門と顔を見合わせて呆れたように笑ってしまった。


それから僕達は会場へ向かう。

会場の応援席は既にほとんど埋まっていたが、何とか三人並んで座れる席を見つけた。

「これ、勝っても負けても全国大会には出場出来るんだよな?」

三之助が校章の入ったバルーンを弄りながら尋ねる。

「うむ!今回関東からは上位三校が出場できるらしいぞ!」

三之助は「ふぅん」とか言いながらバルーンを手の中で回す。そして不意に顔を上げると、ニッと笑った。

「でもどうせなら優勝して欲しいよな」

その言葉に左門も大きく頷き、同意する。

「その通りだ!負けて良い試合など一つも無いからな!!」

左門は握りこぶしを強く握ると立ち上がりそうな勢いでそう言った。

左門は剣道部、三之助は陸上部に所属している。

やっぱりそういう部に入ってると分かる何かがあるのかな、と思いながら僕は熱くなり始めた二人を見ていた。



やがて選手が入場し、試合が始まった。

実は未だに基本的なルールしか分からない僕だけど、激しい試合展開や会場の熱気や歓声も相まって、周りの人達と共に全力で応援していた。

「やった!」

「取れっ……ああ惜しいっ!」

「右だ、右!!」

取る取られるの激しい攻防に、目が離せなくなる。藤内もその中で時にシュートを決め、時にパスをカットして、攻撃に守備に大きく貢献していた。


前半終了一分前、得点は同点で、両チーム一歩も譲らない。

そんなときボールは再び藤内へと渡った。

「よし!行けっ藤内!!」

「上がれ上がれー!!」

左門と三之助がより一層大きく声をあげる。

僕も身を乗り出しながら藤内を応援した。

藤内は相手チームの選手をドリブルで次々かわし、あっという間にゴール下まで辿り着いた。

そしてそのままの勢いでボールを放つ。ボールは藤内の手を離れ、鋭い弧を描く。リングにぶつかり、沿うように二三回回ったと思うと、そのままリングを潜り抜けた。

途端に周りから歓声が上がる。

前半終了の笛が鳴った。


「藤内入れたな!!」

「うむ!これで二点リードできたぞ!!」

ハーフタイムの間、興奮冷めやらぬ二人は拳を握りながら前半の試合状況を振り返る。手に汗握る試合に僕の心臓は収まるところを知らないらしい。

興奮でバクバクという心臓に軽く息を上げながら、僕も二人の会話に参加した。


ハーフタイムも終わり、再び僕達は前を向く。すると、何かに気がついた三之助が声をあげた。

「相手校……メンバーチェンジするみたいだな」

僕も相手校のベンチの方へと目を向ける。

ベンチから出てきた面子の中には、確かに一人先程とは違う面子が混ざっていた。

「って……あれ?」

三之助がまた何かに気がついたように声をあげる。

どうしたの、と聞こうとしたとき、今度は左門が声をあげた。

「ん?んんんんん?」

二人の目線は先程のメンバーチェンジされた選手だ。

「え、何、どうしたの?」

そう尋ねると二人は、目を見開いて驚いた表情を浮かべながら、小さく呟いた。


「「作兵衛……」」




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