大空と錬金術師
本の虫
本の山から掘り出されたのは、眼鏡をかけた小柄なな女性だった。
「あああああすみませんすみません!!うっかり本の山を崩してしまって……このまま死ぬかと思いました。ありがとうございます〜〜〜!!」
土下座するような勢いで謝る女性に軽く圧倒されながらエドはどういたしまして、と返す。
「貴女がシェスカさん?」
ロス少尉が訪ねると、女性は少し首をかしげながら頷いた。
「はい、私がシェスカです。……軍人さんが私に何か……?」
「少し前まで火事のあった第一分館で働いていたって聞いて、話を聞きにきたの」
ロスの発した第一分館という言葉にシェスカは顔を輝かせ、しかしすぐ暗く沈んだ表情になった。そんなシェスカの反応に、何かタブーに触れたのではと、ロスとブロッシュが慌てる。
「ど、どうかしましたか?」
ブロッシュが恐る恐る尋ねるとシェスカは顔を上げ、首をふる。
「いえ……第一分館……良い職場だったな、と思いまして……」
「え、辞めちゃったんですか!?」
遠い目でどこかを眺めながら紡がれたその言葉にブロッシュは驚きの声をあげる。 ブロッシュの言葉にますます表情を暗くしたシェスカは絞り出すような小さな声で呟くように語り始めた。
「私、本が大好きなもので分館に就職が決まったときはすごく嬉しかったのですが……でも本が好きすぎて……その……仕事中だということを忘れて本ばかり読んでいたものでクビになってしまいまして」
シェスカの言葉に一同は固まる。クビになるまでの経緯を語ったシェスカは床に手をついて項垂れた。
「病気の母をもっと良い病院にいれてあげたいから働かなくちゃならないんですけど……ああ〜本当に私ってば本を読む以外何をやってもどんくさくてどこに行っても仕事貰えなくて……そうよ、ダメ人間だわ。社会のクズなのよう……」
ついに涙を流して落ち込むシェスカにアルとツナは言葉をなくし、エドはなんとも言えない表情になる。 そんな中獄寺だけは呆れたようにシェスカを見下ろした。
「完全に自業自得じゃねえか」
「ちょっと、獄寺君!!」
とどめを刺すような獄寺の発言をツナが慌ててたしなめる。しかし、獄寺の言う通り、シェスカの自業自得は否めなかった。
「えっと、それは何とも……その……」
どうにもフォローしようのない地雷を踏みにじり、ブロッシュはテンパってアワアワと言葉にならない言葉を紡ぐ。そんなブロッシュを尻目にエドはシェスカに歩み寄った。
「あーーー……ちょっと聞きたいんだけどさ」
エドが話しかけるとうなだれていたシェスカが顔をあげ、エドを見上げた。
「はい、何でしょう?」
「ティム・マルコー名義の研究書に心当たりあるかな」
エドが尋ねるとシェスカは空を見つめてマルコーの名を口の中で繰り返し呟く。そして1分もたたない内に明るい顔で手を合わせた。
「……ああ!はい、覚えてます。活版印刷ばかりの書物の中で珍しく手書きで、しかもジャンル外の書架に乱暴に突っ込んであったのでよく覚えてます」
その言葉にエドは目を見開く。
「……本当に分館にあったんだ……」
今まで国中回って必死になって探していた賢者の石の資料が、こんな身近なところにあったという事実にエドは驚きを隠せずに呟く。
「……っつうことは分館ごと丸焼けだな」
しかし、獄寺の冷静な一言で兄弟は分館の焼失という現実を思い出し、ガックリとうなだれた。
「『振り出しに戻る』、だ……」
「どうもお邪魔しました……」
やっと巡り会えた希望に見放され、二人は放心状態でフラフラと玄関へ向かう。そんな二人のあとを慌ててツナが追いかける。エドとアルのあまりの落ち込み具合に、シェスカは自分が先程まで落ち込んでいたことも忘れ、心配そうに声をかける。
「あ、あの……その研究書を読みたかったんですか?」
後ろからかけられた小さな疑問にエドはどんよりと頷いた。
「そうだけど今となっては知るすべなしだ……」
声に出したらますますへこんだのか、深いため息をついた。そんな二人にロスとブロッシュは哀れみの視線を送る。
「私、全部中身覚えてますけど」
本を掻き分け、玄関へ向かっている兄弟は、唐突に呟かれたその言葉に動きを止めた。
「「……は?」」
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