大空と錬金術師
本屋敷
先日、謎の不審火により全焼してしまったという第一分館は、外壁すらも焼け崩れ、本は一冊も生き残ってはいなかった。それでもどうしても諦めきれなかったエドは、本館の方に残っていないかとわずかな希望を求めて急ぎ向かう。
そしてインフォメーションで著者名から検索して貰った。
「ティム・マルコー……えーと……」
逸る気持ちを抑えながら索引する事務員を待つ。事務員はしばらく索引本を眺めた後、困ったように顔を上げた。
「ティム・マルコーの賢者の石に関する研究資料……やっぱり目録に載ってませんね。本館も分館も新しく入ったものは必ずチェックして目録に記しますからね。ここに無いってことはそんな資料は存在しないか、あっても先日の火災で焼失したってことでしょう」
事務員から言い渡された結果にエドは絶望の表情で崩れ落ちる。隣でアルも項垂れていた。
「どうもお世話になりました……」
どんよりと暗い声で挨拶をして、二人はインフォメーションに背を向ける。二人のあまりの気落ちっぷりに、事務員は心配そうに「大丈夫?」と声をかけた。
「大丈夫じゃないよ……」
やっとの想いで掴んだ唯一の希望に裏切られ、意気消沈としたエドがぼんやりと応える。ツナはどう二人に声をかけて良いかわからず、オロオロと二人を見ていた。
そんなとき、不意に丸眼鏡の事務員が声をあげた。
「シェスカなら知ってるかも」
その言葉に事務員も「ああ!」と明るい声をあげる。シェスカなる人物を知らないエド達は首をかしげるしかない。
「シェスカの住所なら調べればすぐ分かるわ。会ってみる?」
「誰?分館の蔵書に詳しい人?」
エドが尋ねると、事務員は苦笑としか言えない表情を浮かべる。
「詳しいって言うか……あれは文字通り『本の虫』ね」
教えられた住所を元に『シェスカ』という人物を訪ねる。中央市街の一角にあったその家は、ごく一般的なアパートの一室だった。
ドアにはライオンの口輪仕様のノックが取り付けられている。
「初めて生で見たよ、ライオンのノック……」
日本生まれ日本育ちのツナは物珍しげにノックを見る。そんなツナの事情を知らないブロッシュは、内心「田舎出身なのかな?」と考えながらノックに手をかけ、ドアを数回叩く。しかし中からは何の反応もなく、ブロッシュは首をかしげた。
「留守ですかね?」
その言葉にエドは家の窓を見上げて首をかしげる。
「明かりがついてるからいると思うけど……」
ブロッシュはノックから手を離すと、「失礼します……」と声をかけながらそっと扉を開いた。
そして覗き込んだ先には想像を絶する光景が広がっていた。
「うわっ、なんだこの本の山!!」
扉の奥に広がっていたのは、大量の本で埋め尽くされた部屋だった。
本屋の倉庫と言っても差異無いのではと思う程の本の量に、ブロッシュは思わず「本当に人が住んでるんですかここ!?」と声をあげる。あまりにあまりにもなその部屋に、さすがの獄寺も口を開けたまま唖然としていた。
訪ねる家を間違えたのではと何度も表札を確認してみるものの、残念なことに図書館で渡されたメモの示す場所はここで間違いはなかった。やがて決心を決めたエドが、恐る恐る部屋に踏み込む。
「シェスカさーん!いませんかー?」
「おーい」
一同は本と本の間に辛うじて作られた道を進みながら、シェスカを探す。積まれた本の山はアルの背丈も越えて、天井近くまで積み上げられており、テーブルはおろか寝る場所すら見当たらなかった。
「とても人が住んでる環境には思えないけど……」
鎧を本の山にぶつけないようゆっくり奥に進みながらアルは呟く。その側を歩いていたツナも「確かに……」と呟いて頷いた。
「……ん?」
不意に獄寺が足を止める。それに気付いたツナは足を止めて獄寺を振り返った。
「どうしたの?」
獄寺は片手を耳に当てながら首をかしげる。
「いや……今、誰かの声がしませんでした?」
ツナは獄寺と同様に片手を耳に当て、音を拾うのに集中する。するとツナの耳はか細い声を拾った。
「聞こえた!」
内容までは聞き取れなかったが、聞こえたそれは確実に女の人の声だった。
声の持ち主がここの家主であるシェスカなのではと、声を拾うのに集中しながら辺りを見回す。
すると、目の端に乱雑に積まれた―――というより、崩れた本の山が見えた。嫌な予感に苛まれながら、ツナは崩れた本の山に近付く。
「だれかー……たすけてぇー……」
山の中から聞こえてきた声にツナはサッと血の気が引くのを感じた。しかし瞬時に我に返り、声をあげる。
「わぁああああ!獄寺君、アル!人っ!!人が埋まってる!!」
手近にいた二人を呼び、慌てて本の山を掻き分ける。他の面子にも助けを呼ぶ声が聞こえたらしく、駆け寄って本をどかせるのを手伝い始める。
やがて中から一人の女性が掘り出された。
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