[携帯モード] [URL送信]

大空と錬金術師
屋根の上

イーストシティの東方司令部の屋根の上。

黒衣に身を包んだ背の低い小男、グラトニーがじっと動かずイーストシティを一望している。

「傷の男はあれから現れた?」

同じく黒衣に身を包むグラマラスな女、ラストがグラトニーのもとに歩み寄る。

それに気付いたグラトニーは「ラストおかえりー」と間延びした声をかけ、そして首を振った。

「この近くにはいない。あっちは?」

「鋼の坊やが第一分館に隠されてた賢者の石の資料の存在に気付いちゃってね。先回りして処分してきたわ」

ラストは言いながらグラトニーの隣に優雅に腰かける。

「さすがにあれだけの蔵書があると資料を探し出すのも容易じゃなくてね、面倒だから建物ごと焼いちゃった」

ラストは何でもないことを言うように―――まるで軽い世間話をするように放火を口にする。

「中央に入っちゃえば坊やの見張りも必要ないだろうし、とりあえずこっちの様子を見に戻ってきたんだけど……そう、まだ片付いてないの……」

どこか残念そうに言うラストにグラトニーは「ごめんねー」と声をかける。ラストは「良いのよ」と言って首を振った。

「あの不思議な匂いの子供はどうしたの?中央に連れて行ったんでしょ?」

「ああ、あの子は『下』の牢屋に入れておいたわ。今はエンヴィーが見てる。一応『お父様』に報告したけれど、お父様は私達の自由にしなさい、って」

ラストがそう言うとグラトニーは「そっかー」と返す。それから更に何かを聞こうと口を開いたが、その言葉を発する前にグラトニーは動きを止めた。

「グラトニー?」

そんなグラトニーの様子に疑問を持ったラストが声をかけるが、グラトニーは何も返さずに立ち上がる。

そして何かの匂いを探すように上を向いて鼻を動かした。

「におうよ、におうよ」

辺りを見回し、ある一点で動きを止める。

「血の匂いをまとったイシュヴァール人が近くにいるよ」

ラストはグラトニーの言葉に深い笑みを浮かべ、グラトニーの名を呼ぶ。グラトニーは空を見つめたまま頷いた。


「食べていい?」


「髪の毛一本残さずね」


ラストの答えに、ヨダレを垂らしたグラトニーは嬉しそうに歯を見せた。

[*BACK][NEXT#]

3/12ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!