大空と錬金術師
作動確認
「何をギャーギャー騒いでんの。早くアルの鎧を直してあげなさいよ」
工房の軽い片付けをし、油で汚れた手や顔を洗ってきたウィンリィがひょっこりとドアから顔を覗かせる。その後ろからアームストロングも部屋に入ってきた。
「いや、こっちも色々あってよ。今やるよ」
そう言いながらエドはアルの破損部位を覗き込んだ。
「すぐ直るのか?」
アームストロングが尋ねると、エドは「ちょっとコツがいるけどね」と頷く。そしてアルの首を外すとアームストロングを招き寄せた。
「背中の内側に印があるだろ。これがアルの魂と鎧との仲立ちになってるんだ。この印を崩さないように手足を直さなきゃならない」
アームストロングはエドの頭越しにアルを覗き込む。
「血文字のようだな」
「血文字だよ。俺の血」
まさか本当に血文字だとは思わなかったらしい。自分で尋ねたにも関わらず、アームストロングは少し青ざめたような引いたような表情でエドを見る。しかし当のエドとアルはそんなアームストロングを気にも止めず、「もう少し深くえぐられてたら終わってたねー」などと笑いあっていた。
「さて、やるか」
そう言うとエドは両の手をパンッと音をたてて合わせる。青白い光がアルの鎧を走り、見る見る間にアルの鎧は元の姿を取り戻していく。
次の瞬間には、破壊される前と同じに戻ったアルがそこにいた。
初めて見る錬金術に獄寺は目を見開く。そして何か考え込むように軽く俯いた。
アルは立ち上がると自分の体の動きを確かめるように右手のひらを開いたり閉じたりした。そんなアルをポンポンと叩きながらエドは満足げに笑う。そして素早く髪を三つ編みに結うと、ニッと笑った。
「よーし、んじゃ早速……」
兄弟は庭まで出ると突然戦い始めた。のどかな空の下、激しく金属がぶつかり合う音が響く。二人の行動があまりにも唐突すぎてツナはついていけず、あんぐりと口を開ける。
「なんだ?兄弟喧嘩か?」
二人の行動を理解できなかったのはアームストロングも同じらしく問いかける。するとエドはアルの攻撃をかわしながら「ちがうちがう」と首を振った。
「手足の作動確認も兼ねて組み手をやってるんだよ」
「それにここしばらく身体を動かしてなかったからカンを取り戻さないとね」
言いながらも兄弟の攻防は続く。アルの豪快な攻撃を身軽な動きでエドはいなした。そのまま隙を突くようなエドのカウンターに、アルは素早く反応して防御する。
「アイツら……なかなかやるな」
呟くように獄寺が言葉をこぼす。そんな獄寺にツナは笑って頷いた。
「うん、二人ともすっごく強いんだ」
獄寺はツナの言葉に「まぁ10代目には敵わないでしょうがね」と答えながら、しかし真剣な表情で二人の戦いを見る。
「ならば我輩も協力しよう!!」
そこで、ワイシャツを脱ぎ筋肉を盛らせたアームストロングが嬉々としたようすで飛び入り参加した。
「ギャー!」
「来るなー!」
突然の参加者に兄弟は悲鳴を上げて逃げ惑う。しかしアームストロングはエドを捕まえるとその小さな身体を筋肉で封じ込めた。
「まだまだであるな、エドワード・エルリック」
笑って言われたその言葉に、負けず嫌いなエドの闘争心が燃える。すぐさまアルを巻き込んで再戦を申し込み、また敗れ、また立ち向かい……と暴れて過ごしているうちに気付けば夕食の時間となっていた。
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