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大空と錬金術師
幽霊

ピナコは最後にネジを閉めるとスパナを下ろした。

「完成!」

その言葉にエドは立ち上がり、ストレッチをするように腕と足を伸ばす。ギッギッと機械鎧から低く擦れる音が鳴る。

「どうだい?」

「うん、良い感じ」

ピナコの問いに笑顔で答えるとエドは可動域を確かめるために軽く腕と足を回す。そんなエドにピナコは満足げな表情を浮かべる。

「あんたの事だからどうせ日頃の手入れをサボると思ってね、今回使ってる鋼はクロームの比率を高くして錆びにくくしてみたの。そのかわり強度が下がったからあんまり無茶は……」

しないように、と続くはずだった言葉は飲み込まれた。エドが颯爽と工房を走り去っていったためである。

「アルーお待たせー!」

「って聞きなさいよあんたは!!」

説明も聞かずに駆け出すエドに、ウィンリィはスパナを振り回して怒声を上げる。そんな二人を苦笑しながら見ていると、隣で獄寺が首をかしげた。

「『アル』って……確かあのチビの弟でしたっけ?まだ一回も会ったことねぇんですが、この家にいたんですね」

そんな獄寺にツナはやっとまだアルの事を紹介していなかったということに気づく。

「ごめん獄寺君!紹介するの忘れてた!」

動けないアルはずっと工房の隣の部屋に籠っていたし、獄寺は獄寺でかなり忙しく働いていたため、すっかり紹介するタイミングを失っていた。

ツナは慌てて獄寺を連れて工房の隣―――アルのいる部屋へと入っていく。そこにはアルとアルの部品を並べるエドの姿があった。

「鎧の破片、これで全部か?」

「うん、イーストシティの憲兵さん達が丁寧に拾ってくれた」

破損部位の確認をする二人の元にツナは駆け寄る。そんなツナに気が付いたアルは顔を上げ、そしてツナの後ろでアルを見る獄寺の存在に気付いた。

「ああ、君がゴクデラハヤト君?」

アルは軽く体を動かして獄寺の方を見て尋ねる。しかし獄寺は何も答えず黙ったままアルを睨み付けていた。

「うん、そうだよアル」

何も言わない獄寺に、アルのそばまで来たツナは慌てて答える。

「獄寺君、この人がエドの弟のアルフォンスだよ」

ツナがそう紹介するものの、獄寺はやはり答えない。いつもならツナに話しかけられればすぐに答える獄寺なのだが、今回はとことん反応しない。

「ご、獄寺君〜?」

表情の読めない獄寺に若干ビビりながらツナは獄寺に呼びかける。

すると弾けるように体を揺らした獄寺はツナの方に顔を向けた。しかしすぐにアルに―――正確にはアルの破損部位に目を戻す。

「あ……」

ツナは唐突に、アルが中身のない鎧であることを思い出した。慣れてしまったために忘れていたが、中身のない鎧など普通にホラーだ。そういえば、獄寺の顔色も気持ち青ざめているようにも見える。

「あのさ、獄寺君、実は……」

ツナが話しかけようとしたところで、獄寺は突然己のポケットを探り始めた。その動きに驚いたツナは思わず言葉を飲み込んでしまう。獄寺はポケットやら懐やらを探りながら声を上げた。

「10代目、今すぐソイツからお離れください!!」

そしてやっと目的の物を見つけたのか、素早く懐から腕を抜く。獄寺の手に握られていたのは、ツナも何度か見覚えのある水晶の数珠だった。

「ナンマイダブツナンマイダブツ……成仏したまえ〜成仏したまえ〜……ナンマイダブツ……」

恐らく殻の鎧に幽霊が入ってると思ったのだろう。むにゃむにゃとお経もどきの何かを唱えながら獄寺は真剣な表情で数珠を持つ手を擦り合わせる。激しく振られた数珠はじゃらじゃらと音をたてる。そんな獄寺の突然の奇行にエドとアルは驚き、そして戸惑いながらツナの方を振り返る。二人の困惑の視線をひしひしと感じながらツナは困ったような表情で頬を掻いた。

「獄寺君、獄寺君」

ツナの声に反応した獄寺がお経を止めて顔を上げる。

「アルは別に幽霊じゃないよ。事情があって鎧が体なんだ」

ツナが端的に説明すると、再び獄寺はピシリと固まる。そして構えていた数珠をおろすと神妙な面持ちで頷いた。

「……なるほど、わかりました」

その言葉にホッとしかけたのもつかの間、顔を上げた獄寺の顔はとても輝きを放っていた。

「……つまりコイツはゴーストではなくモンスターの類いと言うことですね!」

「全然分かってなかったーーー!!」

思わずツナは頭を抱える。数珠をしまった獄寺は「さすが異世界」と頷きながらアルに寄ってまじまじと見た。

「アルはモンスターじゃねぇ!」

弟を純粋にモンスター扱いされ、さすがにエドも黙ってはおれず叫ぶ。そんなエドを慣れたように左手でなだめながらアルは苦笑混じりに口を開いた。

「一応僕は人間だよ。元々生身の体持ってたんだけど、ちょっと訳あって体をなくしちゃって……だから兄さんが錬金術で鎧に僕の魂を定着させてくれたんだよ」

アルを未だまじまじと見ていた獄寺は『錬金術』の言葉に顔を上げる。

「ああ、これが例の錬金術ってやつか」

そうしてようやく獄寺はアルが人間であるということを納得した。



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