大空と錬金術師
三日間
それからのロックベルの三日間と言うのは、まさに怒号の日々だった。
最初はウィンリィは外装、ピナコは電子回路……と、別々の作業をしており、静寂の中作業が進まれていた。
しかし右腕の組み立ての段階に入り、二人が共同作業に入ると、一気に作業場は慌ただしくなった。一部を組み立てては微調整し、組み立てては微調整しを繰り返す。
その傍らでピナコは左足の微調整も同時平行で進めていた。
獄寺も最初は鉄屑を運んだりウィンリィに工具を渡す等の雑用をしていただけだったが、荒い削り出しが終わってからは手先の器用さを活かし、主に部品のヤスリがけを手伝っていた。
その間エドは挨拶がてら故郷を回り、ツナはアームストロングと共に家事を手伝ったり動けないアルの話し相手をしたりと時間を過ごしていた。
ツナ達がリゼンブールを訪れて三日目の夕方、エドとツナが夕食のスープを煮込みながら雑談していたところに、獄寺がエドを呼びに来た。
「機械鎧の接続するから来い、だとよ」
どこかげっそりとやつれた姿の獄寺に対し、エドは顔を輝かせた。
「おっ、出来たのか!」
さすがばっちゃんとウィンリィ!と喜びながらエドはキッチンを出ていく。夕食のスープは大体出来ていたため、ツナも手早く火を消し、獄寺と共にエドを追いかけた。
工房の台には、右腕と左足の機械鎧が整然と並んでいた。どちらも表面を綺麗にやすりがけされており、金属特有の光沢を放っている。
エドは早速とばかりにタンクトップを脱ぎ捨てると、中央に用意された椅子に座った。そして椅子の前に同様に用意されていた台にスペアの義肢を乗せると、慣れた手つきでそれを外す。
そんなエドのもとにウィンリィとピナコは右腕と左足の機械鎧を持ってくる。そしてそれぞれエドの肩と太ももの機械鎧の接合部に差し込むと、軽くネジを回して固定した。
流れるように進む作業にツナは目を丸くする。
あっという間に一番太い中心部の接続を終えると、ウィンリィは腰に下げたウエストポーチから一本の細い工具を取り出した。
「じゃあ次は神経接続ね」
その言葉にエドは途端に顔をひきつらせる。そんなエドの様子に、ツナの隣で接続を眺めていた獄寺が小さく呟いた。
「あ〜……みんなあれ嫌がるんだよな」
獄寺の呟きに、ツナはどうしてかと尋ねる。すると、獄寺は満面の笑みですぐに答えを返した。
「痛いらしいんすよ、めちゃくちゃ。ちょっと前に機械鎧の調整に来た大人の男も、神経接続の後には涙目になってましたよ」
大の大人が泣くほどの痛みと聞き、ツナも顔をひきつらせる。
眉間にシワを寄せて脂汗を浮かべるエドの機械鎧に、ウィンリィとピナコはそれぞれ工具を差し込んだ。
「いいかい?いくよ?」
ピナコはエドというより、ウィンリィを伺い見ながら尋ねる。そして自分の手元に集中すると、掛け声を上げた。
「いち」
「にィの」
「さんっ!!」
3の掛け声と共に、二人は手元の工具を捻った。全身を駆け抜けるかのような衝撃に、エドは短い悲鳴と共に全身の筋肉を強張らせた。
「〜〜〜っ!毎度この神経つなぐ瞬間が嫌でよ……」
げんなりと項垂れながら紡がれた呟きをウィンリィは慣れたように流す。
「泣き言言わないの。はい、動かしてみて」
エドは言われた通り右手を開いたり閉じたりと動かした。機械鎧の指は、まるで本物のそれのように滑らかな動きを作る。
「右手良好」
それをみたウィンリィは少しだけ満足げに笑うと、すぐにむき出しのコードを保護する外装を取り付け始めた。
「でもこの痛みとももうおさらばかもな。賢者の石が手に入れば元の体に戻って万々歳だ」
エドはそう言って得意気に笑う。そんなエドにピナコは「おやまぁ」と笑った。
「残念だねぇ、せっかくの金ヅルが」
「そうよ、無理して元に戻る事ないわよ。かっこいいじゃない機械鎧!」
ウィンリィはエドの右腕を見ながらうっとりとしたようにため息をついた。
「オイルの臭い、軋む人工筋肉、唸るベアリング……そして人体工学に基づいて設計されたごつくも美しいフォルム……ああっ、なんて素晴らしいのかしら機械鎧!!」
まるで恋する乙女のように熱く機械鎧を語るウィンリィに、ツナは若干口の端をひきつらせる。隣で獄寺はきつく眉間にシワを寄せた。
「……また始めやがった……」
この様子だと、ロックベルにお世話になっている間にウィンリィに何度も機械鎧の良さを語られたのだろう。そんな獄寺にツナは心の中で同情する。
同様に散々語られているのだろうエドは、熱弁を続けるウィンリィに呆れたように吐き捨てた。
「機械オタクめ」
エドの態度にウィンリィは熱弁を止めるとムッとした表情で「うるさい錬金術オタク」と言い返した。
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