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大空と錬金術師
少し前

キッチンからツナがいなくなってから、エドは代わりにピナコを手伝っていた。エドは片手ながら器用に野菜を洗い、ちょうど良いサイズに切り分けていく。ピナコはシチューの煮込み具合を見ながら、不意に口を開いた。

「今からちょうど一週間前にね、牧羊場の柵の影でタバコを吸うハヤトをデンと見つけたのさ」

エドは手を止め、目だけピナコの方へ向ける。

「ガキが何てもん吸ってんだって説教食らわせたんだよ。そしたらあの子、私の煙管指差して『テメェも吸ってんじゃねぇかババァ』だってさ。全く生意気なガキだよ」

獄寺が睨みを効かせながら口汚く反論する姿が容易に想像できて、エドは思わず苦笑する。ピナコも口元に笑みを浮かべながら話を続けた。

「ここらじゃ見ない顔だったから『何処から来たんだ』って聞いてら今度はだんまりでね。家出かとも思ったんだがそれにしちゃ手荷物が少ないし金もない。何か訳ありみたいだったからとりあえず持って帰ってみたんだよ」

そう言ってピナコはカッカと笑う。それを聞いたエドは少し脱力しながら笑った。

「ははっ、ばっちゃんらしいや」

ピナコは鍋の火を消すと、後ろの食器棚から6枚の深皿を出す。

「でもアレであの子、意外と使えてね。バイト代出してやるって言ったらちゃんと働いてくれたよ。まぁ家事はてんで駄目だったがね」

ピナコはシチューを皿に注ぎながら顎で壁を指す。エドが壁に目を向けると、そこには見覚えのない黒ずみ―――焦げたような跡が残っていた。

(確かに……家事が出来るようには見えなかったな)

獄寺の不良的な出で立ちを思い出し、エドはサラダを盛り付けながら乾いた笑みを浮かべる。やがてエドがサラダの用意を終えると、ピナコが首を回しながら息をついた。

「さてと、夕飯だ。あたしゃウィンリィ呼んでくるからお前さんはハヤトとツナヨシ呼んどいで」



エドは二人がどこで話しているのか知らなかったため、デンのところへ行った。

「デン、ツナ達どこにいるか探してくれないか?」

裏庭で寛いでいたデンにエドがそう言うと、デンは一声鳴いた後、裏から工房へ入った。そして床に鼻を近付けると、匂いを探るように辺りを嗅ぐ。

やがて一ヶ所で固まったかと思うと、顔をあげて弾けたように走り出した。エドは慌てて駆け足でその後を追う。

デンは二階への階段の前まで辿り着くと、一気に階段を駆け上った。エドは慣れない足に軽くつんのめりながらも、早足で階段を上る。

「い゛っ!!」

エドが階段の半分を上ったあたりで突然、上から籠るようなの呻き声が響いた。

「ぎゃーーっ!!何て命知らずな!?」

続いてツナの悲鳴が上がる。階段を登りきったエドは、半分扉の開いている部屋―――恐らく獄寺が間借りしていると思われる客室を覗いた。

「夕飯呼びに来たんだけど……」

しかしエドはそこまで言って部屋の中のカオスな状況に固まった。

エドの視線の先には、怒りに肩を震わせながら床に突っ伏す獄寺と、その背にのし掛かるデンと、その二人の隣でどうすれば良いのか分からずオロオロと動揺するツナの姿があった。

「この……バカ犬が!!」

ややあって、獄寺は勢いよく上体を起こす。デンはバランスを崩す前に獄寺の背から飛び退いた。獄寺は口許をひくつかせながらユラリと立ち上がると、地を這うような低い声を出す。

「……テメェはいつもいつも俺の上に乗りやがって……!!」

しかしデンは獄寺のドスの効いた怒りの声にも動じることなく、舌を出して尻尾をパタパタと振っている。そんな余裕綽々なデンに更に怒りを募らせ、獄寺は左右のポケットに両の手を突っ込んだ。右のポケットの中からジッポを取り出すと、火を灯して口にくわえる。

「……果てろ!」

獄寺のお決まりの『殺し文句』に、ツナは一気に顔を青くする。そして獄寺が左ポケットから手を抜く前に素早く口を開いた。

「ごっ、獄寺君!!」

ツナの呼び掛けに獄寺はピタリと動きを止める。ツナは目をあちこちに泳がせながら口を動かした。

「ほら……その……あれだよ、あの……えっと……何て言うか……」

そこでツナはエドと目が合い、パッと表情を明るくした。

「ゆ、夕飯!夕飯だって!食べ行こう!!」

そう言って獄寺を振り返る。獄寺は静かにジッポを仕舞うと、ツナの方を向く。

「はい10代目!行きましょう!!」

それまでの剣幕はどこへやったのか……と疑いたくなるほどの明るい笑みを浮かべ、獄寺は了解の返事をした。

そんな獄寺を見てツナはホッとしたように胸を撫で下ろした。

そしてツナはエドにお礼を言うと、獄寺と二人で部屋を出ていく。

(……獄寺にデンは禁物だな……)

獄寺が何をしようとしてたのかは分からなくても、ツナの様子からあまりよろしくないことだと悟ったエドは、そっと心の中で呟きながら部屋を出た。

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あきゅろす。
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