大空と錬金術師
話
突然始まった感動の再会を床に座ったまま唖然とした表情で見ていたエドは、不意に我に返って獄寺を指差した。
「えっ、ツナ、もしかして……コイツがツナの世界での仲間?」
ツナが嬉しそうな笑顔を浮かべながらそうだと頷く。するとエドを振り返った獄寺が目をつり上げた。
「てめぇ10代目に向かって馴れ馴れしい口きいてんじゃねぇぞ、あ゛ぁ?」
先程までとは打って変わったドスの効いた声で威圧する獄寺の、その見事な切り替えの早さにエドは思わずたじろぐ。
そんな獄寺をツナは大慌てで止めに入った。
「ごっ、獄寺君!この人は俺がこっちに来てから色々お世話になってる人で、獄寺君探すのも協力して貰って……だから威嚇はやめてー!」
ツナの必死の懇願に獄寺は渋々といった様子で眼光を緩め、エドに威圧をかけるのをやめる。
「10代目がそうおっしゃるなら……心の広い10代目に感謝するんだな」
捨て台詞のように最後に毒づく獄寺に、ツナは困ったように笑いながら代わりに謝罪する。そんなツナにエドはまだ少し戸惑いながらもぎこちなく頷いた。
「アンタの言ってた『10代目』ってのはツナヨシの事だったのかい、ハヤト?」
それまで様子を見ているだけだったピナコが鍋から視線をずらし、獄寺を見た。そんなピナコに獄寺は短く返事をしながら頷く。ピナコはそれを見て笑みを深める。
「そうかい……久しぶりの友人との再会なんだ、積もる話もあるだろう。地下なり何なり好きなところで、思う存分話しておいで」
夕飯になったら呼んであげるから。
ピナコはそう言うと、隣に立っているツナの背中を獄寺の方へと押しやった。
ピナコの好意に甘えることにした二人は、誰もいない客室―――獄寺の間借りしている部屋へ行く。本人達も予測していなかった再会に、少し冷静になった二人は喜びと戸惑いとが混じったような顔をしていた。
「えっと……とりあえず無事で本当に良かったよ」
獄寺に促され、ベッドに腰かけたツナは先程の言葉をもう一度―――今度は言葉を噛み締めるように呟く。そんなツナに獄寺は神妙な顔つきで頷いた。
「はい。リゼンブールに飛ばされてすぐにこの工房に転がり込めましたので」
ツナは「そっか」と笑って頷いた。
「俺は今エドとアル―――さっきの三つ編みの人とその弟さんにお世話になってるんだ。二人とも探し物の旅をしてるから、その旅に同行させてもらう形でね」
ツナの説明に獄寺はなるほどと頷く。そして何かを思い出したような表情をした。
「ってことは……あのチビが国家錬金術師の『エドワード・エルリック』なんですね」
ツナは獄寺の言葉に驚く。そんなツナに獄寺は笑いながら壁の向こう―――ウィンリィが作業している部屋を指差した。
「この世界の錬金術についてウィンリィに色々聞いたんすけど……その時にアイツが漏らしたんすよ。『国家錬金術師の幼なじみがいる』って」
ツナは納得したように頷く。そして二人はこの世界に来てから今までについて、お互い簡単に報告し合った。
「獄寺君と山本は……一緒じゃなかったんだね」
獄寺がリゼンブールに飛ばされ、ピナコに拾われて住み込みのバイトを始めるまでの一連の流れを聞いていたツナは、呟くようにそう漏らす。
ツナの言葉に獄寺は少し苦しそうに眉間にシワを寄せた。その表情から、獄寺も山本の行方を知らないということは充分に分かる。
獄寺と山本は同時に消えたため、もしかしたら二人は一緒なのではないだろうか。心の端でそう期待していたツナだったが、その想いは裏切られてしまった。
「でも山本は世渡り上手だし、多分大丈夫だよね!」
ツナは先程とは一変し、明るい口調で強く言う。
獄寺もツナの意図を汲むように大きく頷いた。
「まぁアイツもそこらのやつにやられる程弱くはありません。きっと今頃、異世界に来ちまったことにも気付かないままどっかの町に転がり込んでるんじゃないですか?」
肩をすくめて言う獄寺にツナは小さく笑う。
「山本ならありそうだね」
ツナは内心本当にそうだと良いのに、と思いながら山本の無事を祈った。
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