大空と錬金術師
少年
少年はデンを腹の上から追い払うと、勢いよく起き上がりデンを睨み付ける。
「てめぇ何しやがる!!返せ!!」
しかしデンは素知らぬ顔で一声鳴くだけで、タバコの箱を返す気はないようだった。少年はデンのくわえるタバコに手を伸ばすが、デンは華麗に少年の手を避ける。そんなデンに少年はイライラとした様子で舌打ちした。
それをエドが見ていると、少年は不意に顔をあげる。
「てめぇ何見てんだ、あ゛?」
ドスの効いた声で威嚇しながら少年はエドを睨み付ける。しかしエドは威嚇に動じることなく「別に」と短く応えた。
「アンタここらじゃ見ない顔だな。どこから来た?」
エドがそう聞くと、少年は思いっきり顔をしかめる。
「てめぇに答える義理はねぇよ。それよりソイツからタバコ取り上げろ。それは俺んだ」
イライラとした口調でそう言うと少年はエドの背後に隠れるデンを指差す。しかしエドはデンからタバコを取り戻すことはせず、少年を見る。
「アンタ……未成年だろ。こんなの吸ってたら早死にするぞ」
エドの言葉に同意するようにデンは一声をあげる。タバコをくわえているせいでその声は酷くくぐもっていた。対して少年はエドの言葉に眉間に深くシワを寄せる。
「うっせぇな、関係ねぇだろ」
少年はゴロツキよろしくエドにガンを飛ばす。しかし大の大人に混じって軍に所属しているエドにとってはそんな威圧など大した意味を持たず、エドは軽く流すだけだった。
そんなエドに面白くなさそうに舌打ちすると、少年はデンの方を見やる。デンは少年の視線に気付くとタバコをくわえたままそっぽ向いた。タバコを取り返せそうにないことを悟ると、少年はもう一度だけ舌打ちをする。そしてエドに背を向けるとポケットに手を突っ込み歩き始めた。
そんな少年を見たエドも、デンと共に歩き出す。
二人と一匹は無言のまま細い小道を歩いていった。
「……」
しばらく歩いていると、少年は歩きながら後ろを振り向いた。少年の後ろには未だエドとデンが歩いている。
「……どこまでついてくる気だよ」
少年は顔をしかめながらエドに吐き捨てる。しかしエドは「俺も帰り道がこっちなんだよ」と返した。
しかし表面では平静を保っているエドも内心首をかしげていた。この道の先には、ピナコの工房以外に家はない。
この少年はどこに向かっているのだろうと考えていると前方からため息が聞こえてきた。
「……ってことはやっぱりババァの客かよ」
エドの右肩を見ながら呟かれたその言葉にエドは反応する。
「ババァって……ピナコばっちゃんのことか?」
エドがそう尋ねると、少年は「そのバカ犬の飼い主のババァだ」と答えた。少年もピナコの工房へ向かっていることを悟ったエドは少年の腕や足を見る。
「ってことはアンタもどっか義肢なのか?」
自分と同じ機械鎧仲間なのだろうかと尋ねてみると、「んなわけあるか」と一蹴された。
「ババァんとこでバイトしてんだよ。もっとも……金さえ溜まったらすぐにでも出ていってやるけどな」
しばらく顔を出さないうちにバイトなんて雇ってたのか……とエドは少し驚いた。機械鎧技師であるからピナコもウィンリィも力はあるのだが―――しかしやはり女手だけよりも男手があった方が色々助かることもあるのだろう。
(でもコイツかなり不良っぽいけど……ちゃんと働くのか?)
シルバーアクセサリーをいくつも身に付けたその出で立ちや荒々しい話し言葉、タバコを吸っていたという事実からエドは少しだけ心配そうに少年の後ろ姿を見た。
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