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大空と錬金術師
帰る家

「おっと、飯と言えばそろそろ夕飯の仕度をしなくちゃいけないね」

それまでの淡々とした口調とは打って変わって、明るい口調でそう言うとピナコは座っていた椅子から立ち上がる。

「あんた沢山食べそうだから作りごたえがあるよ」

アームストロングを見てピナコはカッカと笑う。しかしアームストロングは慌てて首を振った。

「いえ、そこまでお世話になるわけには……」

しかしアームストロングの言葉をピナコは笑いながら遮る。

「遠慮するこたぁない。飯はみんなで食べた方が美味いだろ。寝床も患者用のベッドがいくつか空いてるから使うと良い。どうせあの兄弟もここしか泊まるところがないんだ。三人泊まるも四人泊まるも一緒だよ」

ツナはそこまで聞いて思わず首をかしげた。アームストロングも同様にピナコの言葉を聞きながら訝しげな表情となる。

「泊まるところがないとは……兄弟の故郷と言うなら彼らの家があるのでは?」

その言葉に対しピナコは軽く上を向くと目を閉じた。

「無いよ。あの子らには帰る家がない。エドが国家資格をとって旅立つ日にあの子、自分の家を跡形もなく焼いてしまった」

予想だにしなかったその言葉にツナは驚く。ピナコは言葉を続けた。

「あたしには錬金術はよくわからんがあの子らのやろうとしていることが生半な事ではないと言うのはわかる。あの子らは帰る家を失くす事で自分達の道を後戻りできんようにしたんだろうよ」

そう言ってピナコは煙管を外すと、口から白い煙を吐き出した。煙はゆらゆらとたゆたうと、やがて空気に紛れて消えていった。

「さて、辛気くさい話はもうおしまいだよ。アンタ達食べれないものはあるかい?」

ツナは首を振って「無いです」と答える。アームストロングも同じく首を振った。

「そうかい。じゃあ今晩はシチューにでもしようかね」

そう言ってピナコは作業用のエプロンを脱ぎ、近くにかかっていた別のエプロンへと着替える。

「あっ、手伝います!」

そう言ってツナは工房を出ていくピナコを慌てて追いかけた。



母親の墓参りを終えたエドは、昔自分達の家のあった場所まで来ていた。

丘の上にあるそこは、未だ焼け焦げた木やレンガなどが残っており、どこか侘しさを感じさせる。エドはしばらくの間、何をするでもなくその光景を眺めていた。

そんなエドをデンはどこか心配そうに見上げる。その視線に気付いたエドは、デンに柔らかく笑いかけた。

「……帰るか」

デンはエドの言葉に一声鳴くと、先導するように元来た道へと足を向ける。そんなデンを見ながらエドも足を踏み出した。

「みんなが待ってる」


ピナコの家に向かってしばらく歩いていると、唐突に嗅ぎ慣れない匂いが鼻を掠めた。思わずエドは辺りを見回す。するとデンがエドの袖を引き、前方を指し示した。エドがデンの言う通り前方を見ると、石垣の陰から紫煙が上がっているのが見える。

(タバコ……?)

煙管とはまた違ったヤニの匂いに、エドは訝しげに眉をひそめる。中央ならともかくこんな田舎にタバコ屋などない。誰か余所者だろうかと思っていると、デンが煙の方向へ走り出した。

「あっ、おい!!」

思わぬデンの行動にエドは慌てて後を追いかける。

「ぎゃあっ!!」

デンが勢いよく石垣を曲がったと思うと、そこから短い叫び声が聞こえてきた。

エドが慌てて石垣を曲がると、そこにはタバコの箱をくわえるデンと、そのデンに踏み潰されている一人の少年の姿があった。




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あきゅろす。
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