大空と錬金術師
ヒマ
兄弟とツナは作業の邪魔にならないようにと外に出てきていた。特にやることもなくエドは目を瞑って地面に寝転がる。
「はーー、三日か……」
ツナはエドを見習って目を瞑った。
辺りに心地よい風が吹き、木の葉は揺れて音を奏でる。
空では鳥がさえずりながら飛んでいる。
そこには静かな平穏を形にしたような空間が広がっていた。
「…………とりあえずやることが無いとなると本当にヒマだな」
エドは眉間にシワを寄せながら目を開いた。そんなエドに苦笑いを浮かべながらツナも目を開く。
「ここしばらくハードだったからたまにはヒマも良いんじゃない?」
「三日間くらい平和を満喫しようよ」
しかし平和主義二人の意見にエドは首を横に振って唸った。
「暇なのは性に合わねぇ!!」
まるで駄々をこねるようにエドはジタバタと腕や足を動かす。エドの隣ではデンがエドを真似るように寝転がって四肢を動かした。
そんなエドを呆れたような目で見ていたアルは、ふと何か思い付いたように顔をあげた。
「そうだ、そんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」
そんなアルにエドは「墓参りか……」と呟く。
「でもお前そんなナリじゃいけないじゃん」
エドがアルの体を指差して言うと、アルは頷いた。
「少佐に担いで行ってもらうのも悪いから僕は留守番してるよ。機械鎧直ったらすぐ中央に行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」
諭すようにそう言うアルにエドは空を見上げながら頷く。
「そーだな……ちょこっと行ってくるか」
墓参りを決めたエドは起き上がり、首と肩を回した。どこかへ出るという気配を察したのか、それまで気持ち良さげに寝ていたデンがサッと起き上がる。
「ツナはどうする?」
赤いコートを着ながらエドが尋ねると、ツナは笑って首を振った。
「俺は良いよ。エドのお母さんも知らないやつが来たら戸惑うだろうし」
そう言うとエドは「分かった」と応えた。
「んじゃ、行ってくるわ」
ピナコに墓参りに行くことを伝え、エドは家を出る。その後ろをお供えの花をくわえたデンがトコトコとついていった。
「行ってらっしゃい、兄さん」
「行ってらっしゃい」
アルとツナは手を振ってエド達を見送る。
そしてエドの姿が見えなくなると、ツナはゆっくり手を下ろした。そして立ち上がるとアルの方を向く。
「俺はアームストロングさんの手伝いしてくるね。さっき裏で薪割りするって言ってたから」
少しでも力になりたくてそう言うと、アルは頷いて「ツナも行ってらっしゃい」と手を振った。ツナは笑顔でアルに手を振り返すと、家の壁沿いに歩き裏手に回った。
家の裏手に着くと、すぐにアームストロングの後ろ姿は見つかった。自慢の筋肉を盛らせて素手で薪を割るアームストロングに、ツナは声をかけながら駆け寄る。
「アームストロングさん!」
アームストロングはツナの声に気がつくと、手を止めて振り返った。
「おお、ツナヨシ・サワダ!どうしたのだ?」
肩にかけたタオルで汗を拭きながらアームストロングは用件を尋ねる。そんなアームストロングにツナは何か手伝いたいという旨を話した。
「この世界に来て、何から何までエド達にお世話になってるんで……少しでも何か返したくて……でも二人ともしっかりしてるんで俺に出来ることなんてほとんど無いんですけど」
そこまで言うとツナは困ったような顔で苦笑いした。そしてツナは何を手伝えば良いか聞こうとアームストロングを見上げ、そして固まった。
何故ツナが固まったのかというと……アームストロングがその輝く瞳を涙で潤ませているためである。アームストロングは潤む瞳でツナを見るとゆっくりと口を開いた。
「……訳もわからず異世界へ飛ばされ、信頼できる仲間ともはぐれ、さらには元の世界へ帰れるかも怪しい……そんな状況で他の者を気遣うことの出来る、その底無しの優しさ!!」
アームストロングは握りこぶしを強く握りしめ、溢れる涙を惜しげもなく流す。ツナはどこかで見たような既存感に、思わず数歩後ずさりした。
「あ、アームストロングさん?」
落ち着いて……とツナが言おうとしたそのとき、アームストロングは涙声で叫び、腕を振り上げた。
「我輩感動!!」
アームストロングはツナの逃避を上回る素早さでツナを捕らえると、その持てる力全てを使い、ツナを暑苦しく抱擁した。
「え、あ、ぎゃあぁぁああ!!」
ツナの悲痛な声はリゼンブールの空に哀しく響き、そして消えた。
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