大空と錬金術師
ウィンリィ
エドを叱る声と共に、上方から銀色の何かが飛んできた。
突然の事に反応出来なかったエドは、見事にそれを頭で受け止めてしまう。
「ごふっ!!!」
辺りに痛々しい鈍い音が響き渡り、エドはぶつかった所を押さえながら悶絶するようにうずくまった。エドの足元には銀色の光を放つスパナが転がっている。
「ど、どこからこんな凶器が……!?」
ツナは仰ぐように後ろを振り返ると、二階のベランダに腰に手を当ててエドを睨む少女の姿を見つけた。
「メンテナンスに来るときは先に電話の一本でも入れるように言ってあるでしょ!!」
透き通るような凛とした声が辺りに響く。そんな少女に対し、エドは大きく声を張り上げた。
「てめーウィンリィ殺す気か!!」
しかしウィンリィと呼ばれた少女は、エドの主張など意に介さず豪快に笑い、ベランダから身を乗り出した。
「おかえり!」
明るく笑う少女をエドは不機嫌そうに見上げると、ぶっきらぼうに一言「おう」とだけ返した。
ツナ達は彼女の家にお邪魔した。
ピナコに案内されて部屋の中に入ると、オイルと鉄の匂いが鼻を抜ける。部屋は工房のようになっており、あちこちにエドのつけている機械鎧に似た義肢が置いてある。
ツナはピナコこそがエドの言う機械鎧整備士なのだろうと悟った。
「さて、長旅だったろ?これでもお飲み」
ピナコはそう言うと、エド達にコーヒーを入れて配る。エドはコーヒーを受けとるとソファにこしかけ、まるで自分の家のようにくつろいだ。
ツナはアルのそばに寄って木箱に寄りかかる。
それぞれがコーヒー片手にくつろいでいると、二階からドタドタと階段をかけ降りる音が工房に響いた。
足音は勢いを緩めぬままに工房に近付いてくる。
そして工房の前まで来ると足音はピタリと止まり、扉が勢いよく開かれた。
「で、今度は何やらかしたの!?」
ウィンリィは工房に入ってくると開口一番にそう聞いた。その慣れた様子から、エドが機械鎧をあまり大切に扱っていないことが伺える。
エドは空のコーヒーカップを床に置くと、おもむろに赤い上着を脱いた。
上着の下からエドの消えた右腕があらわになる。
「んなーーーーー!?」
それを見たウィンリィは悲痛な叫び声をあげた。ウィンリィは目を見開いてエドの消えた右腕を凝視する。
「あ……あんた……それ……!!」
震える指で右肩をさし、硬直するウィンリィを見たエドは、表情一つ変えずに口を開く。
「おお、悪ぃ。ぶっ壊れた」
軽くそう言い放つエドに大股で歩み寄ると、ウィンリィは青い顔のまま震える唇を開いた。
「ぶ……ぶっ壊れたってあんたちょっと!!あたしが丹精込めて作った最高級機械鎧をどんな使い方したら壊れるって言うのよ!!」
「いやそれがもう粉々のバラバラに」
はっはっは、とエドは笑いながら言う。ウィンリィはあまりの衝撃に真っ青になってよろめいた。
「で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたら一体どんな生活してんのよ」
再びスパナでエドをぶちのめしたウィンリィは、箱詰めとなっているアルを見て呆れたように溜め息をつく。対してアルは照れたように「いやぁ」と声をあげた。
「そういえば、そちらは?」
ウィンリィはツナとアームストロングの方を向いてアルに尋ねる。
「こっちはツナ。新しい旅仲間だよ。それでこっちはアームストロング少佐。……兄さんがあんなだから、ここまで担いで貰ったんだ」
アルから紹介を受け、二人はそれぞれ挨拶した。そんな二人にウィンリィはにこりと笑う。
「あたしはウィンリィ・ロックベル。あのバカの整備士兼幼なじみよ。よろしく」
そう言ってウィンリィはツナに手を差し出す。ツナは少し照れたように顔を赤らめながら握手した。
「挨拶はそれくらいにして、早く治してくれよ」
ややあってエドがウィンリィに呼びかける。ウィンリィは呆れたようにエドを振り返った。
「何よ、急かしちゃって……なんかこの後急ぎの予定でもあるわけ?」
そう尋ねるウィンリィにエドはニッと笑った。
「元の体に戻る手がかりが見つかりそうなんだ」
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