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大空と錬金術師
賢者の石

「石を持っているのか!?」

マルコーの言葉に興奮気味にエドが食いつく。

マルコーはエドの言葉に頷き、後ろの棚に向かう。そしてそこから小瓶を取り出した。

「「「……え?」」」

ツナとエドとアルの三人が思わず声を上げる。

小瓶に入っていったソレは、三人の予想を裏切る姿をしていた。

「……液体?」

ツナが小さく呟く。マルコーはその呟きに応えるように軽く小瓶を揺らし、中のソレは動きに合わせて表面を揺らす。

―――小瓶の中には赤い液状の何かが入っていた。

「『石』って……これ液体じゃ……」

エドが伺うようにマルコーを見る。マルコーは小瓶の栓を抜くと中の液体を机の上に全て溢した。

「ええ!!?」

予期せぬマルコーの行動にエドは声を上げるが、エドの心配は杞憂に終わった。

液体は机の上に零れると、そのまま机に染み込むことも広がることもなくまとまった。まるでスライムのようなソレにエドとアームストロングは興味津々といった様子で覗き込む。

「『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥラ』『第五実体』……賢者の石にいくつもの呼び名があるようにその形状は石であるとは限らないようだ」

そう説明する横でエドは賢者の石をつついている。賢者の石はエドが続くと弾力性を示すように震えた。


皆が賢者の石に興味を示す中、ツナだけは一歩引いたところから周りの様子を見守っていた。

(……あれは、嫌だ)

ツナは賢者の石を見ると眉間にシワを寄せた。

ツナにも何故賢者の石が嫌なのか分かっていない。しかし、ツナの脳内には警鐘が鳴り止むことはなかった。

まるで一枚ベールを挟んでいるように、マルコー達の声が遠く聞こえる。

「だがこれはあくまで試験的に作られたものでな、いつ限界が来て使用不能になるか分からん不完全品だ。……それでもあの内乱の時密かに使用され絶大な威力を発揮したよ」

―――試験的

―――不完全

―――内乱

ツナの中でマルコーの言葉がぐるぐると回る。しかしいくらツナの中を回っても、マルコーの言葉は消化しきれず残り続ける。


ツナは隣にいるアームストロングに声をかけた。

「アームストロングさん……賢者の石って、何なんですか……?」

アームストロングは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ納得したように表情を和らげた。そして小声で言葉を紡ぐ。

「そうか……お主が知らぬのも無理はないな。賢者の石とは、伝説の石だ。完全な物質であると言われ、錬金術師がソレを使えばわずかな代価で莫大な錬成を行えるらしい」

ツナは、何故エドとアルが賢者の石にここまで食い付いていたのか理解した。アームストロングの話が本当なら、ソレがあれば二人は元の身体を取り戻せるかもしれない。

しかし、賢者の石の事を知れば知るほどツナは賢者の石を良い存在と思えなかった。

(……錬金術の法則すら無視する……賢者の石……)

本当にそんな都合の良いもの、あるのだろうか。そんな想いがツナの中に生まれていた。


そんなツナには気づかず、エドの表情には希望を見つけた喜びに溢れていた。

「不完全品とはいえ人の手で作り出せるってことはこの先の研究次第では完全品も夢じゃないってことだよな」

何かを考えながら俯き、言葉を紡いでいたエドは勢いよく顔を上げるとマルコーに詰め寄った。

「マルコーさん、その持ち出した資料を見せてくれないか!?」

当然ながらマルコーは驚きの表情を浮かべる。

「そんなものどうしようと言うのかね。アームストロング少佐、この子はいったい……」

アームストロングはマルコーの問いに「国家錬金術師ですよ」と答えた。

その予期せぬ言葉にマルコーは顔を歪めると手で額を覆う。

「こんな子供まで……潤沢な研究費をはじめとする数々の特権につられて資格を取ったのだろうが、なんと愚かな!!」

マルコーの声は絶望と悲しみを含んで部屋に響く。

「あの内乱の後、人間兵器としての己の在り方に耐えられず資格を返上した術師が何人いたことか!!それなのに君は……」

「バカな真似だと言うのは分かってる!」

マルコーの声を遮るようにエドが声を上げた。

エドは左腕で右肩―――機械鎧の付け根を強く握りしめ、歯を食い縛る。

「……それでも、目的を果たすまでは針のムシロだろうが座り続けなきゃならないんだ……!!」

マルコーはエドの目を見る。そして木箱に詰められたままのアルを見た。


「―――いったい君達に何があったんだい……?」


エドはマルコーを見ると、マントと上着を脱いだ。上着の下から現れた機械鎧が、明かりに反射して鈍く光る。


「……俺達は人体錬成をやろうとした……」



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