大空と錬金術師
錯乱
高く鳴り響いた音の正体は銃の発砲音だった。
「「「え……」」」
ツナ達は驚いて固まってしまう。
視線を上げるとそこには、怯えた表情で銃を構えたマルコーがいた。
「何しに来た!!」
マルコーは恐怖に震えながらも銃を真っ直ぐ構える。銃口からは硝煙が細く上がっている。
ツナは硝煙を見て、先程ドアを開いた瞬間掠めていった銃弾を思い出す。そして心の底から自分の悪運の良さに感謝した。
「っつうか、俺がドアに立った意味ねーーー!!」
相手が誰かも確認せず、問答無用で発砲された現実に、ツナはちょっぴり泣きたくなった。
そんなツナの隣に、アームストロングが歩み出た。
「落ち着いてください、ドクター」
しかしアームストロングが前に出てきたことでマルコーはより青ざめる。
銃口をツナからアームストロングに移しながら叫んだ。
「私を連れ戻しに来たのか!?」
マルコーはジリジリと後ろに下がりながら錯乱したように言葉を続ける。
「もうあそこには戻りたくない!お願いだ!勘弁してくれ……!」
そのマルコーの瞳は、暗く恐怖と後悔にさいなまられており、ツナの漠然とした不安を掻き立てた。
「違います、話を聞いてください」
「じゃあ口封じに殺しに来たのか!?」
「まずはその銃をおろし……」
「騙されんぞ!!」
マルコーを宥めるようにアームストロングが言葉をかけるが、マルコーはそれを聞き入れない。
やがてそんなマルコーに痺れを切らしたアームストロングは、左腕―――アルを担いでいる腕の筋肉を盛らせた。
「落ち着いてくださいと言っておるのです!!」
アームストロングの言葉と共に、左腕に担がれていたアルがマルコーに投げ付けられる。
辺りに金属がぶつかり合う高い音と、マルコーが地に倒れる鈍い音が鳴り響いた。
その後なんとか敵意がないことを説明した一行は、マルコーの家に上がった。
「私は耐えられなかった……」
全員がテーブルに落ち着いたところで、マルコーはそう切り出した。
「上からの命令とは言え、あんな物の研究に手を染め……そして『それ』が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ……」
マルコーは肩を落とし、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「本当に酷い戦いだった……無関係な人が死にすぎた……」
エドは眉間にシワを寄せ、アームストロングは辛そうに目を瞑り俯いている。アルは表情には表れないものの、やはり辛そうだった。
ツナはマルコーの言葉に列車での会話を思い出す。
『つーか東部の内乱のせいで何もなくなっちゃったんだけどね』
身近にある『戦い』という存在に、ツナはくしゃりと表情を歪めた。
「私のしたことはこの命を持ってしても償いきれるものではない。それでも出来る限りの事をと……ここで医者をしているのだ」
アームストロングはゆっくりと目を開くと、マルコーを見た。
「一体貴方は何を研究し、何を盗み出して逃げたのですか?」
アームストロングの問いにマルコーはより一層顔色を悪くする。額に手を当て、まるで口に出すことさえも拒むように歯を食い縛る。
しばらく沈黙のまま俯いていたマルコーは少し息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「賢者の石を作っていた」
エドは四年間ずっと追い求めていたその名前に、大きく目を見開き呆然とする。それはアルやアームストロングも同じようで、一切の動きを止めてただマルコーを見ていた。
「私が持ち出したのはその研究資料と石だ」
賢者の石の価値も意味も理解していないツナは、『戦い』に使われたという石の存在に恐怖し、不安げに顔を歪めながら話を聞いていた。
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