大空と錬金術師
訪問
マルコーの家まで着いた四人は、とある重要事項について話し合っていた。
その重要事項とは―――一体誰がマルコーの家の扉を叩くのか。
一見どうでも良さげな内容だったが、自分達を軍の遣いと勘違いをしているであろうマルコーに刺激を与えないため、アームストロングとエドは大真面目に話し合っていた。
「……やっぱ……で、少佐が……」
「……だが先程……だから……」
五分ほどアームストロングとエドは二人で話し合っていると、やがて意見がまとまったのか顔を見合わせ頷きあった。
そして二人は同時に、アルの隣にて待機していたツナの方を振り向く。
エドはツナを強い瞳で見ながら、親指を突き立てて言った。
「―――ってことでツナ、任せた!」
「なにゆええぇぇえええ!!?」
条件反射的にツナは大きな声を上げた。
その隣でアルが「やっぱり」と言いながら渇いた笑い声を上げている。
「ええぇぇえええ!?何で俺!!?無理だから!多分無理だから!!」
ツナは思ってもみなかった展開に腰が引け、全力で拒否体制に入る。
エドはそんなツナに近付くと、落ち着かせるように肩を二回叩いた。
「落ち着けって。ただドアを叩いてマルコーさん呼ぶだけだから」
「簡単な仕事だぞ!」
そう諭すように言うエドとアームストロングにツナは勢いよく首を振り、全身で拒否の意を表す。
「簡単な仕事だって言うならエドやアームストロングさんが行ってよ!!」
マルコー宅のドアを指差してツナが叫ぶ。
そんなツナの言葉にアームストロングが額に手を当て、エドは深く溜め息をついた。
「そうしたいのは山々なんだが……少佐の顔は見ただけで逃げられたし……」
先の列車での光景を思い出し、エドは肩をすくめる。口元には苦笑いまでも浮かべていた。
「エドワード・エルリックは目付きや人相が悪い上に軍所属。我輩と同じ理由で刺激を与えてしまうかもしれぬ。かと言ってアルフォンス・エルリックはこの状態では論外……」
エドの言葉を引き継ぐようにアームストロングは言葉を発する。
そしてアームストロングはツナの肩に優しく手を置いた。
「顔も性格も柔和な上に軍に属していない。お主が一番適任なのだ」
ツナは抵抗するように「無理だ」と首を振った。
しかしどんなに押しても引いても全く動かないアームストロングに、やがてツナは絶望したように深く息を吐いた。
ツナはマルコーの家のドアの前に立つ。その顔は緊張に歪んでおり、とてもじゃないが人を安心させるような顔ではない。
(大丈夫……大丈夫……ちょっとノックして挨拶するだけ……)
心の中でそう呟いたツナは、1つ深呼吸をする。そしてひきつっている頬を軽く叩くと、ドアを見上げた。
「……すみませーん」
意を決したツナは少し小声気味に声をかけ、ノックした。
しかし中からは反応はない。
「すみませーん、誰かいませんかー?」
もう一度、今度は少し声を張り上げて声をかける。しかし相変わらず中からの応答は無かった。
そんな様子に思わずドアの死角に隠れるエド達を振り返るが、エドは首をかしげるだけ。
(……まだ出掛けてるのかな?)
ツナは不安そうな顔のままそっとドアノブに手をかけた。
するとドアノブはすんなりと回り、ツナにドアは鍵が閉まっていないことを示した。
(……やっぱ……いるのか?)
ツナは生唾を飲み込むと、ゆっくりとドアを引いた。
「……あの〜……」
ツナがドアを開いた瞬間、何か弾けるような、高くかつ大きな音が辺りに響いた。
『こんにちは』
そう挨拶しようとしていたがツナだったが、その言葉は途中で途切れ最後まで紡がれることはなかった。
[*BACK][NEXT#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!