大空と錬金術師
町医者
汽車を降りた一行は、そのままマルコーの走り去った方角へ進む。
突然家畜車両から降ろされ、何が何だか分かっていないアルには道すがらツナが事の次第を伝えた。
「……なるほどね。ありがとう、ツナ。大体の流れは分かったよ」
アルはツナにお礼を言った。
ツナはアームストロングに担がれたアルを見上げながら「どういたしまして」と返す。その表情は表面的には柔らかいものだったが、何か瞳の奥に固さが残っていた。
「どうかした?」
そんなツナに気づいたアルはツナに尋ねる。ツナは曖昧に笑うと頬を掻いた。
「なんか『変な予感』がして……」
「変な予感?嫌な予感じゃなくて?」
ツナはアルの言葉に頷いた。
「嫌……とは違うんだ……でも快い訳でもなくて……何て言うか……『不安』……かな?」
マルコーに会うこと、それにより何かが始まる予感。
でもそれが、良い結果に転がるのか悪い結果に転がるのか……ツナはそんな不安を感じていた。
少し歩くと、二人の町人の姿が見えた。
エドはすぐに駆け寄ると、その二人にマルコーの居場所を尋ねようと口を開く。
「あの、さっきここを通った……えーと……」
しかしマルコーを説明出来る上手い言葉が見つからず、エドは口ごもってしまう。
するとアルを地面に置いたアームストロングが懐から手帳と万年筆を出した。アームストロングは手帳を開くと、そこにサラサラと何かを書き込む。あっという間に出来上がったのはマルコーの精巧な似顔絵だった。
「うわ、そっくり……」
「……少佐絵上手いね……」
ツナとエドは露骨なまでに意外そうな表情を向ける。しかしアームストロングは気にした様子もなく、むしろ自慢げに胸筋を張った。
「我がアームストロング家に代々伝わる似顔絵術である!」
アームストロングはそれを町人に見せると行方を尋ねた。
「こういうご老人が通りませんでしたかな?」
二人は似顔絵を見ると表情を明るくした。
「ああ、マウロ先生!」
「知ってる知ってる!」
予想に反し、返ってきたのは聞き慣れない名前だった。その事にエドとアームストロングは思わず首をかしげる。
「マウロ?」
すると二人の内一人がは頷きながら口を開いた。
「この町は見ての通りみんなビンボーでさ。医者にかかる金もないけど先生はそれでも良いって言ってくれるんだ」
その後エド達は町人二人に『マウロ先生』の行った方向を教えてもらい、その方向へ歩き出す。
それからも町人に会う度にアームストロングの似顔絵で『マウロ先生』の居場所を尋ねた。
町人達は似顔絵を見ると一様に表情を明るくし、エド達に快く行き先を教えた。
「いい人だよ!」
「絶対助からないと思った患者も見捨てないで看てくれるよな」
「おお、俺が耕運機に足を巻き込まれて死にそうになったときも綺麗に治してくれたさぁ!!」
「治療中にこう……パッと光ったかと思うともう治っちゃうのよ」
町人達の話に時折出てきた光という言葉にエドは反応する。
「光……」
「うむ、恐らく錬金術だ」
アームストロングも頷いて応える。
二人の言葉にツナは錬金術特有の青白い光を思い浮かべた。
「そうか、偽名を使ってこんな田舎に隠れ住んでいたのか」
そう呟くアームストロングの言葉に、エドは納得していないような、考えるような表情で唸る。
「でもなんで逃げたんだ?」
その質問に、アームストロングは少し複雑そうな顔をした。そして少し口をつぐむと、ゆっくり言葉を選ぶように口を開く。
「ドクターが行方不明になった時に極秘重要資料も消えたそうだ。ドクターが持ち逃げしたともっぱらの噂だった……我々を機関の回し者だと思ったのかもしれん」
アームストロングのその言葉に、ツナは少し眉間にシワを寄せる。
(……もしかして、この予感はその資料のせい……?)
お金の無い人でも平等に治療をし、町人誰もに厚く信頼されるような……そんな人間が持ち逃げした、極秘資料。
おそらく、己の利益の為に持ち出した訳ではないのだろう。
では何故?
そう考えているうちに、小さな一軒の家に辿り着いた。
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