大空と錬金術師 始まる エドとアームストロングの喧嘩も終わり、静かな汽車の旅に浸っていると不意にアームストロングがツナの方を見た。 「綱吉の故郷には何があったのだ?」 ツナはその質問に考えるように首を傾げる。 「うーん……いざ何があるかと言われると……」 そう言って考え込んでいると、アームストロングが笑って言葉を付け加えた。 「何、ちょっとした興味だ。この世界と違う所でも、あちらの世界の発達している所でも、何でもいい」 その言葉に再びツナは考え、そして口を開いた。 「そうですね……とりあえず、錬金術はないです。機械鎧は……似たようなものはあるけどこんなに高性能じゃなくて……」 自分の世界とこの世界を頭の中で比べながら違うところを挙げていく。気付けばエドもツナの話に耳を傾けていた。 「錬金術とは違う方向で科学が発展してて、携帯―――持ち運べる電話とかもあります。あとは音だけじゃなくて映像も見れるラジオとか……50階建ての建物とか……あ、飛行機っていう空を飛ぶ汽車みたいな交通手段もあります!」 ツナは少し懐かしむように目を細める。まだあちらを離れてたった数日しか経っていないと言うのに、何だか酷く故郷の世界を遠く感じた。 一方エドはツナの言葉に「汽車が空を飛ぶのか!?」と驚きの表情をあらわにした。 ツナの言葉一つ一つに頷きながら真摯に聞いていたアームストロングも、飛行機のくだりでは予想以上に自分の常識から掛け離れたツナの世界に、驚きを隠しきれないといった表情をしていた。 「ありえねー……まるで小説の世界だな」 エドがそう呟くと、ツナは思わず吹き出し、そして笑った。 「俺からしたら『錬金術』こそ小説の世界だよ!」 ツナがそう言うと、エドは今気が付いたかのように「あ、そうなるのか」と頷いた。 そんな二人の様子に、アームストロングも笑っている。 「いやはや、事実は小説より奇なりとはまさにこの事!貴重な体験だな!」 滅多に出来ることではないぞ? そう言って笑うアームストロングに、ツナもつられて笑い返した。 笑っているうちに気が付けば、ツナの中にあった寂しさのようなものはすっかり失われていた。 しばらく汽車は揺れ、ツナとエドはまどろみの世界に引きずり込まれていった。 ふと汽車の減速に気づきツナが顔を上げると、小さな町の駅に着いたようだった。 エドやアームストロングの様子を見る限り、まだリゼンブールではないらしい。 もう一眠りしようかと重い瞼を閉じようとしたその時、アームストロングの大きな声が車内に響いた。 「ドクター・マルコー!!」 何事かと驚いて目を開けると、アームストロングは窓から身を乗り出して誰かを呼んでいた。 「ドクター・マルコーではありませんか!?」 窓の外へ目を向けると、そこには中年位の男が立っていた。 男はアームストロングの呼び掛けにこちらを振り向く。 「中央のアレックス・ルイ・アームストロングであります!」 彼はアームストロングの言葉に驚いたように目を見開いた。 見る見る顔色は悪くなり、何か切羽詰まったような表情を浮かべたと思うと、弾けるようにその場から走り去る。 「知り合いかよ」 普通じゃない反応をして走り去った男に訝しげな表情を浮かべながらエドはアームストロングを見上げた。 「うむ……中央の錬金術研究機関にいたかなりやり手の錬金術師だ。錬金術を医療に応用する研究に携わっていたが、あの内乱の後行方不明になっていた」 アームストロングの言葉にエドは何かを決意したような表情をすると、席から立ち上がった。 「降りよう!」 一言それだけ言うと、手荷物を持って乗車口に向かっていく。 ツナは慌てて鞄を持つとエドの後を追い掛けた。 「む?降りるのはリゼンブールという町ではなかったのか?」 アームストロングも降りる準備をしながらエドに尋ねる。 「そういう研究をしていた人なら生体錬成について知っているかもしれない!」 エドの説明にアームストロングは納得したように頷いていたが、ツナの表情はあまり晴れやかではなかった。 (……何だろう……) 嫌な予感、とは少し違う。しかし決して良いとは言えない何か―――そんな何かをツナは感じていた。 (あの人の顔を見てからだ……) ドクター・マルコーと呼ばれた男。その切羽詰まったような、何かを恐れるような表情を見てから、ツナの中で何かがざわめいていた。 何かが始まる。 確信に近いそれを感じながら、ツナは汽車を降りていった。 [*BACK][NEXT#] [戻る] |