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大空と錬金術師
無いもの

「我輩は機械鎧の整備師とやらを見るのは初めてだ」

興味深そうな表情でアームストロングがエドに言う。

「正確には外科医で義肢装具師で機械鎧調整師かな。昔からの馴染みで安くしてくれるし良い仕事するよ」

懐かしそうに遠い目をして窓の外を眺めながらエドはそう言った。

(機械鎧整備師か〜……)

ツナのいた世界には機械鎧そのものが無かったため、当然ツナも機械鎧の整備師に会ったことはない。

あんな凄い義肢を作るのはどんな人なのだろうか、とツナはまだ見ぬ機械鎧整備師に思いを馳せていた。

(スパナみたいな人だったりして……もしくはジャンニーニ?)

自分の世界の科学者達を思い出してツナは少し微笑む。

「その整備師がいるというリゼンブールとはどんなところだ?」

アームストロングがそう尋ねると、エドは少し眉を下げた。

「すっげー田舎。なんも無いよ。つーか東部の内乱のせいで何も無くなっちゃったんだけどね」

軍がもっとしっかりしてりゃ賑やかな町になってただろうなぁ。

最後にさりげなく付け加えられた言葉にアームストロングは複雑な表情を見せた。

「……耳が痛いな」

「そりゃいい。もっと言ってやろうか」

そんな二人のやり取りに、ツナは小さく笑った。その笑い声に気付いたエドも、少し肩をすくめながら笑みを浮かべる。

エドは再び窓の外に視線を戻しながら柔らかく微笑んだ。

「……本当に静かなところで何もないけど、都会にはないものがいっぱいある。それが俺達兄弟の故郷リゼンブール」

エドにつられて、ツナも窓の外に目を向けた。
窓の外には赤々とした夕陽が光り、大地を染め上げている。

(都会にはないもの……)

そこには美しい自然が雄大に広がっていた。



不意に窓の外を眺めていたエドは、何かを思い出したように振り返るとアームストロングを見上げた。

「ところでアルはちゃんとこの汽車に乗せてくれたんだろうな」

眉間にシワを刻んでそう尋ねるエドにアームストロングは余裕の笑みを浮かべた。

「ふっふーぬかりはないぞ―――家畜車両に載せておいた」

アームストロングの発言に、エドとツナは一瞬固まった。

「んなーーー!?家畜車両ーーー!?」

すぐさま我に返ったツナが驚きの声をあげる。その隣ではツナの声で我に返ったエドがワナワナと震えていた。

しかしそんなことは意にも介さず、アームストロングは自信満々に笑っている。

「一人じゃ寂しいと思ってな!」

アームストロングのその発言に我慢しきれなくなったエドは怒りの表情で立ち上がった。

「てめぇ俺の弟を何だと思ってるんだ!!」

エドはそのままアームストロングに掴みかかろうとする。

慌ててツナが二人の間に入ってエドを止めるが、原因であるアームストロングの方はどうしてエドが怒っているのかさっぱり分からないといった表情だった。

「むうッ何が不満なのだ!広くて安くて賑やかで至れり尽くせりではないか!」

火に油、まさにそんな勢いでエドの怒りのボルテージが上がっていく。

「ふざけんなーーーっ!!」

エドは周りの視線も気にせず大声をあげていた。


―――結局二人のはた迷惑な口喧嘩は、汽車の車掌が止めに入るまで延々と行われていた。



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