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大空と錬金術師
イシュヴァール

「イシュヴァール?」

ツナは初めて聞く単語に首をかしげる。

「ああ、綱吉君は異世界人だから知らないのか」

気が付いたようにマスタングが声を漏らした。そんなマスタングの様子にハボックが小声でブレタに話し掛ける。

「……なあ……うちの大佐は『異世界』ってのを受け入れんの早すぎねぇ?」

「……錬金術師だからじゃね……?」

二人の会話が聞こえていたツナはエドやアルも受け入れ早かったな……と内心納得する。マスタングにも会話は聞こえていたのか、マスタングはそちらを振り返ると笑った。

「いくら多方面に広がる錬金術でも『異世界』については研究されてはいない。だが錬金術師として言わせて貰えば、綱吉君の持つ『死ぬ気の炎』はこの世界のどの法則からもかけ離れている。そうなれば『異世界』の存在も必然的に信じるしかなくなるさ」

なるほど、と錬金術の分からない面子は納得したように頷いた。

「話が逸れたな。イシュヴァールの事についてだったね」

ツナが頷くと、マスタングの瞳に陰りが入る。


「イシュヴァールとは、この国の東に住んでいた一神教を掲げる部族であり……この国により滅ぼされた部族だ」

イシュヴァールの民はイシュヴァラを絶対唯一の創造神とする東部の一部族だった

宗教的価値観の違いから国側とはしばしば衝突を繰り返していたが

13年前軍将校が誤ってイシュヴァールの子供を射殺してしまった事件を機に大規模な内乱へと爆発した

暴動は暴動を呼びいつしか内乱の火は東部全域へと広がった

7年にも及ぶ攻防の末軍上層部から下された作戦は―――国家錬金術師も投入してのイシュヴァール殲滅戦

戦場での実用性を試す意味合いもあったのだろう

多くの術師が人間兵器として駆り出されたよ



「私もその一人だ」

ツナは思ってもみなかった話に目を見開いて聞いている。

(……じゃあ……国が国民を殺した……ってこと……!?)

自分がいた国では考えられない出来事。それをうまく飲み込めずツナは、戦いの中で見た復讐に揺らめく瞳を思い出した。

マスタングは目をつむると、再び口を開く。


「だからイシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある」


マスタングの言葉にハッとしたツナは思わず口を開いた。

「違う!!」

突然のツナの大きな声に驚いた面々はツナを見る。

「そんなの絶対違います!!こんな……関係ない人まで傷付く復讐に……正当性もなにもない!!」


あの男のやり方―――忌み嫌う錬金術を使い、端から国家錬金術師を殺すことで復讐対象を殲滅するというやり方は、かつての骸達を思い出させた。

忌み嫌うマフィアの力でマフィアを滅ぼすことを目論み、ツナという標的を見つけ出すため並盛の強い者を端から皆襲った骸達。

その為に傷付いた沢山の風紀委員、ツナの仲間達……そしてフウ太。

多くの人が傷付いた。

関係者も、そうでない者も

ただ、傷付いただけだった。


「復讐が何かを生む事は何もありません。あるのは破壊と悲しみの連鎖だけです」


ツナは男に向かって言った言葉と全く同じ言葉をはっきりと言った。


マスタングはツナの目を見た。

ツナの瞳には強い光が灯っていた。

(……マフィアの次期ボス……この少年もこの若さにして色々嫌な経験をしてきたのだろうな……)

ツナの瞳が語る経験を悟ったマスタングは少しだけ目を細めた。


ツナが話し終わったのを確認すると、今度はエドが口を開く。

「俺もツナの意見に賛成だ」

そう言うエドの眉間には深くシワが刻まれている。

「奴は醜い復讐心を『神の代行人』ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ」

そこで、それまで黙っていたヒューズが話しに入る。

「だがな、錬金術を忌み嫌うものがその錬金術をもって復讐しようってんだ。なりふり構わん人間てのは一番厄介で……怖ぇぞ」

その言葉にツナはゴクリと生唾を飲んだ。

対照的にマスタングはヒューズの言葉に短く息を吐いた。

「なりふり構ってられないのはこっちも同じだ。我々もまた、死ぬわけにはいかないからな。次会ったときは問答無用で―――潰す」

マスタングのその言葉に、彼の優秀な部下達は強い光を持った瞳で応えた。


ただその中で、ツナとエド、アルの三人だけは暗い顔で俯いていた。


(……関係ない人達まで巻き込むこんな復讐許せない……でも……でもあの人だって好きでこうなった訳じゃないんだ……)

骸と似た心を抱えるあの男を、ツナはどうしても憎みきることが出来なかった。



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あきゅろす。
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