大空と錬金術師
生きてる
エドのアルを呼ぶ悲痛な叫び声に、ツナは顔を上げた。
優しい憲兵のお陰で止血は済んでおり、ツナはフラフラと兄弟の元へと歩いていった。
「アル!大丈夫か、おい!!」
エドの必死な声に、それまで俯いたまま動かなかったアルは小さく身じろぎする。
「この……バカ兄!!」
アルは大声と共にエドを殴り付けた。
ツナは思わず足を止める。
エドは一瞬何が起こったのか分からないと言うように呆けた顔をした。
そこに畳み掛けるかのようにアルはエドを怒鳴り付けた。
「なんで僕が逃げろって言ったときに逃げなかったんだよ!!」
エドは眉をハの字にしてアルを置いては逃げられないと主張したが、再度アルに拳で殴られた。
「それがバカだって言うんだーっ!!」
エドは殴られた場所を押さえながら起き上がる。
「なんでだよ!俺だけ逃げてたらお前殺されたかも知れないじゃんか!!」
二人は周りの目も気にせずに怒鳴り合う。
「殺されなかったかもしれないだろ!!生き延びる可能性があるのに、あえて死ぬ方を選ぶなんてバカのすることだ!!」
「あ……兄貴に向かってあんまりバカバカ言うなーっ!!」
「何度でも言ってやるさ!!」
アルはエドの胸ぐらを掴みかかった。
「生きて生きて生き延びてもっと錬金術を研究すれば僕達が元の体に戻る方法も……ニーナみたいな不幸な娘を救う方法も見つかるかもしれないのに!!」
エドはアルの言葉に目を見開く。
「それなのにその可能性を投げ捨てて死ぬ方を選ぶなんてそんな真似絶対に許さない!!」
エドは目を見開いたままアルを見つめていた。
唐突に、アルの肩で金属にヒビが入る音が鳴る。
その直後、アルの右腕が肩からもげて落ちた。
「ああっ右手もげちゃったじゃないか、兄さんのバカたれ!!」
それを見たエドは少し息を抜き、乾いた笑みを浮かべた。
「ボロボロだな、俺達。カッコ悪いったらありゃしねぇ」
そんなエドに、壁に背を預けたアルが言った。
「でも生きてる」
エドもアルの言葉に薄く笑って頷く。
「生きてる」
エドは噛み締めるかのようにそう呟いた。
「二人とも大丈夫?」
ツナは一段落ついたのを見て二人の元へと近付いた。
エドは慌てて立つとツナに左肩を貸そうとする。
「ありがと、エド。でも平気だよ」
本当を言えば、炎も気力も体力も、全て使いきってしまっていたため、立っているのも辛かった。しかしエドも、ツナ同様に疲れていると分かっていたため、ツナはエドの申し出を断った。
ツナに目を向けたことで、それまで見えていなかった周りの様子にも目が向いたエドは唐突に固まった。
「ってか……うわ……よく考えたら公衆の面前じゃん……」
エドは先程周りを気にせずに兄弟喧嘩を繰り広げていた事に今更気づいて恥ずかしそうに頬を染める。
「良いんじゃない?後に引きずるよりずっとさ」
ツナがそう言うとエドは「そう……か?」と複雑そうな表情をする。
(まあ……あれは喧嘩と言うよりお説教だったもんね)
ツナはそんなエドに苦笑を浮かべた。
しかしツナ的にはアルの言う通りだと思っていたため、それ以上はエドをフォローしなかった。
「二人とも、風邪を引くわよ」
不意に近くで発せられた声と共に、エドとツナの肩に何かがかけられた。
二人が振り返ると、そこにはリザとハボックが立っていた。
「リザさん、ハボックさん、ありがとうございます」
「あ、ありがと中尉。少尉も」
二人にかけられたのは、リザとハボックの軍服だった。
「さ、そっちも肩貸すぜ」
そう言ってハボックはアルに寄っていくとアルの左脇に腕を入れて立たせた。
「すみません。ありがとうございます」
アルが謝るとハボックは大丈夫だと笑った。
そんな二人の隣でリザは何人かの憲兵を呼び集める。
「アルフォンス君の欠片、集められるだけ集めて持ってきてくれる?」
「「はい!」」
リザの指示に従って憲兵達がアルの腕や欠片を拾い集める。
その様子を見て手伝いに行こうとしたエドとツナをリザは止めた。
「そっちは彼等に任せて……貴方達にはすぐに司令部についてきて欲しいの」
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