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大空と錬金術師
赤目

ツナは炎でエドとマスタングのいるところまで戻ると片膝をついた。

エドは慌ててツナに駆け寄る。

よく見ればツナは身体のあちこちから血を流し、いっぱいいっぱいの状態だった。

(こんな状態であんなに戦えるなんて……『死ぬ気の炎』の力……だけじゃないよな……)

ツナに少しだけ聞いた、『お家騒動』や『敵対マフィアとの抗争』。きっとこれらの体験がツナをここまで鍛えたのだろう。そこまで考えてエドは少し複雑そうな表情を浮かべた。


いったん戦線を離れたことで集中が切れたのか、ツナは額から炎を消し、そのまま横に倒れ込む。

慌ててエドはツナの肩を左腕で支えた。

「……ごめん……エド……」

疲労により荒い息をしながらツナは謝罪するが、エドは首を振った。

「助かったよ、ツナ」


男とアームストロングとの戦いはデッドヒートしていた。

再度二人の戦いは肉弾戦に持ち込まれ、戦況はアームストロングが優勢を保っているように見えた。

先程と同様に、だんだんと男は壁際に追い詰められて行く。

しかしそれは男の罠だった。

男はアームストロングのここぞとなると大降りとなる『癖』を見抜いていた。

そしてわざと大きな隙を見せ、アームストロングの攻撃を誘う。

アームストロングは大きく男に振りかぶった。

男は好機とばかりにアームストロングに生まれた隙を狙う。


しかしアームストロングはニヤリと笑うと、すぐに脇を閉めると軽いステップで後ろへ下がっていった。


不審に思った男は警戒するように神経を尖らせ、己が包囲されていることに気づいた。

その目の端に、ライフルを構えるリザの姿が見えた。


五回に渡る銃声が辺りに響く。


最後の銃声と共に男のサングラスが地に落ちる音がした。


「やったか!?」

マスタングの問いにリザは首を振る。

「速いですね。一発かすっただけです」

男は額から血を流し、一瞬倒れ込みそうになった身体を足の力で支える。

俯いていた顔を上げて一同を睨む。

その瞳を見た瞬間、マスタング達の顔色が一変した。


「褐色の肌に赤目の……!」

「……!イシュヴァールの民か……!!」


エドとツナは訳もわからず大人たちを見上げる。

マスタング達は今までとは違う色を瞳に秘めていた。

「……やはりこの人数相手では分が悪い」

その言葉に冷静を取り戻したマスタングが手を上げた。

その合図に反応した憲兵達が一斉に銃を構える。

「この包囲から逃れられると思っているのかね」

まるでマスタングの言葉に応えるかのように、男は右腕を振りかぶった。

地面に右腕を突くと、轟音と共に分解の力によりレンガが割れ、崩れ落ちる。

「あ……野郎地下水道に!!」

轟音が鳴り止み、憲兵達が地面に空いた穴を覗いた頃には男の姿は影も形もなく消えていた。

マスタングが辺りの憲兵や軍人達に深追い禁止を命じる。

「すまんな。包囲するだけの時間を稼いでもらったと言うのに」

マスタングはアームストロングに謝罪する。しかしアームストロングは首を振った。

「時間稼ぎどころかこっちが殺られぬようにするのが精一杯で……あの少年がいて助かった……」

その視線の先には憲兵によって止血されているツナがいた。

マスタングもアームストロングの言葉に頷く。

「初めて会ったときはあそこまで戦闘が出来るとは思わなかったが……あの不可思議な炎といい……何者なんだろうな……」

二人がツナの正体に首をかしげていると、物陰から一人の男が出てきた。

「お?終わったか?」

軍服を着ているその姿から軍人であることが分かる。その男にアームストロングが残念な物を見るような目線を向けた。

「ヒューズ中佐……今までどこに」

「物陰に隠れてた!」

親指を突き立て、偉そうに言うその姿はとても軍人……それも中佐とは思えない。

そんなヒューズにマスタングも呆れたような顔をした。

「お前なあ援護とかしろよ!」

「うるせぇ!!俺みたいな一般人をお前らデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」

上司にあたるマスタングからの文句にすらヒューズは飄々と応えた。

「デタ……」

まさかのヒューズの言い分にマスタングは頬をひきつらせる。

「オラ!戦い終わったら終わったでやること沢山あるだろ!市内緊急配備!人相書き回せよ!」

ヒューズはそんなマスタングを尻目に憲兵達に指示を飛ばしていた。


「アルフォンス!!」


そんな中、エドの悲痛な叫び声が響き渡る。


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