大空と錬金術師
炎
瓦礫に埋もれたツナは身体中を襲う痛みに顔をしかめる。
(……危ない……今……意識飛びかけた……)
外から聞こえる轟音にとりあえず戦闘が続いていることを理解する。
「ぐっ……」
身じろぎすると、近くにナッツの温もりを感じた。
「ありがとう……ナッツ」
小さく震えているナッツに囁く。
壁が剥がれ、襲いかかる瞬間、ツナは一世のマント〈マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ〉を展開していた。
だが一瞬……たった一瞬だけ遅かった。
ツナは降りかかってきた全ての瓦礫を塵にすることができず、瓦礫に埋まってしまった。
(……身体中痛いけどナッツが守ってくれたから……大丈夫……)
幸いにも小柄なツナは瓦礫と瓦礫の重なりあう隙間に入り込んでいた。瓦礫が襲ってきた時もナッツが必死にかばってくれたお陰で致命傷になる傷は負ってはいない。
自分がまだ戦える状態であると確認したツナは瓦礫の中で指輪をした手でナッツに触れた。
「後少しだけ……頑張ろう、ナッツ」
「GAO」
ツナは触れた部分からナッツに炎を渡した。
「少佐あんまり市街を破壊せんでください!!」
あまりに滅茶苦茶な戦い方のアームストロングにハボックが悲痛な声を上げる。しかしアームストロングはそんなハボックに反論した。
「何を言う!!破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!破壊と創造は表裏一体!!壊して創る!!これすなわち大宇宙の法則なり!!」
言い終わる頃にはアームストロングの上半身の軍服は脱ぎ捨てられ、隆々とした筋肉が露となっていた。
「何故脱ぐ」
「て言うかなんてムチャな錬金術……」
ハボックとリザが疲れたような目でそれを見つめている。心なしか男もアームストロングに引き気味な表情を浮かべていた。
「なぁに……同じ錬金術師ならムチャとは思わんさ。そうだろう?傷の男〈スカー〉よ」
アームストロングのその言葉にマスタングが目を見開く。
「錬金術師……奴も錬金術師だと言うのか!?」
その隣でエドはやはり……と納得したような表情を浮かべていた。
アームストロングは男の攻撃に応戦しながら説明を始めた。
「錬金術の錬成過程は大きく分けて『理解』『分解』『再構築』の三つ」
そこまで言われマスタングはアームストロングの言わんとすることを悟った。
「なるほど、つまり奴は二番目の『分解』の過程で錬成を止めていると言うことか」
ハボックは納得のいかないと言う表情で口を開く。
「自分も錬金術師って……じゃあ奴は神の道に自ら背いてるじゃないですか!」
マスタングもハボックの言葉に頷く。
「ああ……しかも狙うのは決まって国家資格を持つ者というのはいったい……」
二人が話している間にも男とアームストロングは戦いを繰り広げていた。
男は戦いながらもアームストロングのフットワークや錬金術、戦い方などをつぶさに観察し、弱点を探す。
アームストロングの錬金術の遠距離からの攻撃を分解し、その隙に接近してきたアームストロングを肉弾戦で応対する。
しかし体格の差からか男は段々と後ろに追い詰められていった。
そして気付けば男の背後には自身の作った瓦礫の山があり、それ以上進めなくなった。
「む……!」
アームストロングが大振りの攻撃を男に仕掛ける。
それをしゃがんで避けた男はサングラスの下で瞳を光らせた。
男はアームストロングとの戦いに集中していた。
そのため気付くのに遅れてしまった。
背後にある瓦礫の一部が、塵と化し消えたことに。
「GAOOOOOO!!」
ライオンの雄叫びが辺りに響く。
瓦礫の中から飛び出してきたのは、漆黒のマントを纏い、額に炎を灯す少年だった。
「!?」
敵味方問わず突然の事に驚愕の表情を浮かべ、宙に浮かぶ少年―――ツナを見る。
そんな中ツナは一同を見下ろし、エドとアルを探す。
「ツナ……!」
エドは無事そうなツナの姿に安心したような声を上げる。
二人の無事を確認したツナもほっと息をつくと、眉間にシワを寄せて男を見下ろした。
男は多少驚いたような表情を浮かべたが、その隙に攻撃を仕掛けてきたアームストロングから離れ、ツナを見上げる。
ツナは男を目で追うと、そのまま一気に急降下した。
急降下しながらツナは拳を振りかぶる。そんなツナに男も構えた。
ツナの拳を男は左腕で受け止めた。
「っ……!」
しかし助走時の炎圧も加わったツナの拳は重く、男は軽く後ろへ吹き飛んだ。
すぐに体勢を整える男にツナは追撃を加える。
雨の降りしきる中、オレンジ色の炎が踊るように瞬いていた。
「なんだあの炎は!?」
マスタングは目を見開いてツナの攻撃を見ていた。
「何故低温なはずの橙の炎が雨の中で存在できている!?そもそもいくら低温でも人体に直接灯る炎などありえんはずだ!!」
そんなマスタングにエドは短く制止をかける。
「……何か知っているのだな、鋼の……?」
「……疑問に思う気持ちは分かるけど……今は我慢してくれ、大佐……」
エドの口はマスタングと応対していたが、その瞳はただひたすらツナを追っていた。
ツナは一世のマントで防御をしつつ、小柄な身体を活かし低い体勢からの攻撃を加えていった。
男はそんなツナに『分解』による反撃をしながら応戦する。
男はツナの攻撃をかわしながら、反撃を加えながら、ツナの隙をうかがうが、ツナは男の右腕を常に警戒しているため、なかなか人体破壊の隙は生まれなかった。
「……お前は何が憎い?」
ツナは男の蹴りをかわしながら唐突に口を開いた。
その言葉に男は顔をしかめるようにしてツナを見るが、ツナは構わず続ける。
「お前の瞳に映っているのは憎しみと復讐心ばかりだ」
男と戦う中で、ツナの超直感はサングラスで隠された男の瞳の中に、憎しみに溢れる心を感じていた。
ツナはその心には覚えがあった。男の心は、瞳は、かつて敵対した仲間のそれによく似ていた。
「復讐が何かを生む事はない。あるのは破壊と悲しみの連鎖だけだ!」
男は少し動揺したように瞳を見開いた。
そして激昂したように目をつり上げる。
「貴様に何がわかる!!」
男は隙など構わず力業でツナに右腕を振りかぶる。
人体破壊の右腕がツナに触れようとした瞬間、炎の推進力を使ってツナはその場を離れた。
ツナと入れ違うように、アームストロングが男の背後から攻撃を仕掛ける。
「!!」
感情に任せ、力業に出ていた男は隙だらけだった。
男は咄嗟に背後の壁を破壊した。
飛散する破片によりアームストロングの行く手が阻まれる。
その一瞬に体勢を整え直した男はアームストロングに向かって行った。
再び、二人の激戦が始まる。
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