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大空と錬金術師



エドが振り向くと、そこにはマスタングを中心とした東方司令部の面々が銃を構えて立っていた。

「危ないところだったな、鋼の」

そう言うマスタングにエドは驚いたような表情を浮かべる。

「大佐!こいつは……」

エドは肩口を押さえながら、マスタングに男の正体を尋ねる。

「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者……だったがこの状況から見て確実になったな。」

そこまで言うとマスタングは一旦言葉を切る。そしてそれまでエドに向けていた視線を男にずらした。

「タッカー邸の殺害事件も貴様の犯行だな?」

男へのマスタングの詰問にエドは目を見開くと、瞬時に目をつり上げて男を睨み付ける。

男はそんなエドを欠片も気にすることなく口を開いた。

「……錬金術師とは元来あるべき姿の物を異形の物へと変成する者……それすなわち万物の創造主たる神への冒涜……我は神の代行者として裁きを下す者なり!」

男は顔を歪め、強く拳を握った。

理不尽ともとれるその言葉にマスタングは至って冷静に言葉を返す。

「それがわからない。世の中に錬金術師は数多いるが国家資格を持つものばかり狙うと言うのはどういう事だ?」

しかし男はマスタングの二つ目の詰問には応えなかった。

「……どうあっても邪魔をすると言うならば貴様も排除するのみだ」

その男の言葉にマスタングは「……面白い!」と応えたが、目元どころか口元すら笑ってはいなかった。

鋭い視線を男に向けながらリザに持っていた銃を投げ渡し、発火布の手袋をはめていた。

「マスタング大佐!」

リザは銃腕とは反対の手で銃を受けとると、慌てた様子でマスタングに駆け寄る。

しかしその気配を察したマスタングは手出し禁止を命じ、リザを止めていた。


一方男はリザの言葉に反応していた。

「マスタング……国家錬金術師の?」

「いかにも!『焔の錬金術師』ロイ・マスタングだ!」

男の問いにマスタングは戦闘体勢に入りながら肯定する。

マスタングの肯定の言葉を聞いた途端、男はかつてないほどに顔を歪ませた。


「神の道に背きし者が裁きを受けに自ら出向いて来るとは……今日はなんと佳き日よ!!」


男はエドのそばを離れ、マスタングのいる方へと歩き始める。

その男の様子にマスタングも応えるかのように、摩擦準備の状態で手を前に突き出す。


「私を焔の錬金術師と知ってなお戦いを挑むか!!愚か者め!!」


男はマスタングの言葉と共に体勢を低くして駆け出した。

あっという間にマスタングとの距離を縮めていく。


マスタングが応戦のため、指に力を入れたとき、隣に立っていたリザが何かに気づいたようにマスタングを振り返った。


「大……」

マスタングを呼ぼうとする。

しかし、男がすでにマスタングの目の前まで迫っていることを確認したリザは、そんな暇がないことを悟る。

そして素早くしゃがみこむと、左足でマスタングの右足を払った。

思わぬ味方からの攻撃に反応できず、マスタングは短く声を上げながらバランスを崩す。

そんなマスタングの目の前を、男の右腕が掠めていった。

男は突き出した腕を引き、尻餅をついているマスタングを再度掴みにかかろうとする。


しかしリザによる2丁拳銃の銃撃により、それは叶う事はなかった。


銃による攻撃を避けながら、男は大きく後ろに下がる。

少しして、男の攻撃射程範囲を充分出たと判断したリザは銃撃を止めた。

その隙を見てエドはマスタング達の元へ駆け寄る。
「何をするんだ君は!!」

突然の足払いに目を白黒させていたマスタングがリザを問いただす。

リザは油断無い目で男を睨み付けたまま、口を開く。


「雨の日は無能なんですから下がっててください大佐!!」


リザの辛辣な言葉に口を歪めてマスタングは固まった。その隣ではハボックが納得したように空を見上げている。

「こう湿ってちゃ火花出せないよな」

その様子を見ていた男は再び体勢を低くしてマスタングに狙いを定める。


「わざわざ出向いてきた上に焔が出せぬとは好都合この上ない。国家錬金術師!そして我が使命を邪魔する者!この場の全員滅ぼす!!」


しかし男はそこまで言ってサングラスの下で目を見開いた。


「やってみるがよい」


男の背後では青い軍服を着た大男が拳を振りかぶっていた。


男は大男の攻撃を素早く横にかわす。

「む……新手か……」

大きな音を立てて大男の拳は壁にめり込んだ。

「ふぅーむ。我輩の一撃をかわすとは、やりおるやりおる」

大男が壁から拳を引き抜くとバラバラと音を立て壁の一部が崩れた。


「国家に仇なす不届き者よ。この場の全員……と言ったな。笑止!!ならばまず!!この我輩を倒してみよ!!この『豪腕の錬金術師』アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」


その熱さを味方側の人間がげんなりとした様子で見つめている。中には眉間にシワを寄せているものまでいた。

男はアームストロングを見つめながら眉間のシワを深める。

「……今日は全く次から次へと……こちらから出向く手間が省けるというものだ。これも神の加護か!」

恐ろしい形相でアームストロングを睨み付ける男に対し、アームストロング本人は唇の端を上げていた。

「ふっふ……やはり引かぬか。ならばその勇気に敬意を表して見せてやろう!わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」

アームストロングはそう言うと己で壊した壁の破片を拾い上げ、錬成陣の描かれた手甲で打って放った。

破片は空中で尖った鉄製の砲弾へと姿を変える。

砲弾は真っ直ぐに正確に男を捉えて進む。

男はその砲弾をすんでのところでギリギリかわした。

「もう一発!!」

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あきゅろす。
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