大空と錬金術師
諦め
エドの機械鎧の装甲が、ネジが、導線が、音を立てて崩れ落ちていく。
「に……兄さん!!」
アルの悲痛な叫びと共に、雷が落ちた音がした。
「おぉぉおおおお!!」
ツナは炎の推進力で男とエドの間に入る。
その勢いを消さないままツナは身体を捻って男に殴りかかる。しかしその攻撃は男が横に跳んだことで空振りとなってしまった。
(とにかく今は二人からあの人を離さないと!!)
ツナは男のもとへ駆けると小刻みに連続攻撃を仕掛けていく。
手刀を用いて、なるべく男の左側から攻めることでツナは男の右腕を警戒していた。
「……」
そんなツナのなかなか隙を見せない攻撃に男は眉を潜める。
男はツナの攻撃を弾いた瞬間、大きく後ろに跳ぶことでツナから距離をとると建物の壁に手を添えた。
「!!」
男が手を添えたところから壁に亀裂が走っていく。
それは先程路地を潰された時と全く同じ状況。
ツナが真上を見上げるのと、ツナの頭上の壁が剥がれ崩れ落ちるのは同時だった。
「ツナああああ!!」
瓦礫と化した壁が地面に落ちる轟音の中、エドの叫び声が響いた。
少しの間瓦礫の山を見つめた男はツナが中から出てこないのを確認すると、エドの方を振り返る。
「神に祈る間をやろう」
そう言い、男は一歩一歩エドの方へ近付いていく。
左腕を地面につきうちひしがれたように下を向くエドは、自嘲気味に返す。
「あいにくだけど祈りたい神サマがいないんでね」
男はエドの隣まで行き、足を止めた。
「あんたが狙ってるのは俺だけか?弟や仲間……アルやツナも殺す気か?」
弱々しく質問するエドを男はサングラスの下から睨み付ける。
「邪魔するものがあれば排除するが……今用があるのは鋼の錬金術師……貴様だけだ」
エドは男の答えに眉間にシワを寄せ、歯を食い縛る。
「そうか、じゃあ約束しろ。二人にはこれ以上手を出さないと」
エドのその言葉にアルが瞳の光を強くし、短く声を上げる。
そんなアルを無視して男は口を開いた。
「約束は守ろう」
しかし、アルが納得するはずもなく、ボロボロの身体を無理矢理持ち上げ、大声で反論する。
「何言ってんだよ……!兄さん何してる!逃げろよ!!」
アルの言葉にエドは反応を返さない。
それでもアルはエドに逃げることを促し続ける。
その間にもエドを殺すために男はエドに右腕を近づける。
「やめろ……やめてくれ!
やめろおおおおおおお!!」
アルの制止もむなしく、エドの頭を男の右腕が掠める。
しかし男は動きを止めた―――すぐ近くで響いた一発の銃声をきっかけに……
「そこまでだ」
警戒の色を示す男と、絶望と驚愕の色を示す鋼の兄弟の耳に届いたのは、焔の錬金術師の声だった。
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