大空と錬金術師
破壊
男の回答にエドは眉間の皺を深くさせる。
おもむろに両手を合わせると、近くにあった鉄パイプを掴んだ。
「やるしかねえ……ってか」
鉄パイプは一瞬で逆手ナイフに錬成される。
同時にアルも男を見据えながらファイティングポーズをとり、ツナは死ぬ気丸を飲み込んで炎を灯した。
そんな三人の様子に男は鼻頭にしわをよせると強く歯を食いしばった。
「いい度胸だ……」
地の底から響くような声で男は呟く。
「いくぞ!!」
兄弟はエドの声を合図に同時に男の方へ駆け出した。
ツナはその間に兄弟達の上を飛び越え、男の背後に回りこむ。
それから三人は一斉に男に攻撃をしかけた。
「だが遅い!」
体勢を低くしてアルの拳とエドのナイフをかわした男はその勢いのまま、ツナの攻撃が届く前に後ろ蹴りでツナを吹き飛ばす。
「ぐっ」
鳩尾に入った重い一撃に対応が一瞬遅れる。
大通りに出る直前に炎の逆噴射でなんとか止まったツナは、慌てて顔を上げた。
「!!?」
顔を上げたツナの目に飛び込んできたのは、アルの鎧の右腹部分を右腕で破壊する男の姿だった。
「アル!!」
そのことに目を見開いたエドは雄叫びを上げながら感情のままに男に斬りかかる。
「野郎オオオオオ!!」
エドは両手で逆手ナイフの柄を掴み、身体に捻りをかけながら男に飛びかかる。
「ダメだ、エド!!」
あの男の右腕には何かが仕掛けられている。触れてはならない。
ツナの超直感がそう叫んでいた。
しかしツナが叫んだ直後には、男はエドの右腕を己の右腕で受け止めていた。
「遅いと言っている!」
男はエドの腕を掴む手に力を込めた。
エドの顔が一瞬恐怖に歪められる。
次の瞬間、電気の弾けるような光と音と共にエドの体はツナのいる方へ投げ出された。
素早くツナは駆け寄る。
(……どこも怪我してない!)
エドの無事を確認したツナは、ほっと息を吐いた。
「……っくそ!!」
雨水を吸って重くなったコートを羽織ったままでは、勝ち目はないと判断したエドは立ち上がると同時にコートと手袋を脱ぎ捨てた。
同時にエドの右腕―――機械鎧が露になる。
「機械鎧……なるほど『人体破壊』では壊せぬはずだ」
それを見ていた男は納得したように頷き、アルの方へ目線をずらす。
「あっちはあっちで鎧を剥がしてから中身を破壊してやろうと思ったが肝心の中身がない」
男は視線を戻し、エドとツナを見る。
「かと思えば雨の中人体に直接炎を灯す奇妙な少年もいる。変わった奴等よ……おかげで余計な時間を食ってしまったではないか」
先の交戦でナイフを落としてしまったエドは、新たな錬成をするために両手を合わせる。
「てめぇの予定に付き合ってやるほどお人好しじゃないんだよ!」
エドは自分の右腕を錬成し、武器に変えた。
ツナも隣で再び戦闘体勢に入る。
「兄さん、ツナ、駄目だ。逃げた方が……」
アルは必死の声で二人に訴えた。しかしエドは即座に反論する。
「馬鹿野郎!!お前を置いて逃げられっか」
エドの言葉にツナも頷く。
アルは大きく身体を破壊され、立ち上がることすらままならない。そんなアルをこの男の元に置いていけるはずがなかった。
そんな三人を横目に男は考えるようにしてエドの右腕を見る。
「……両の手を合わせる事で輪を作り循環させた力を持って錬成するわけか……」
たった二回の錬成でそこまで見抜いた男にツナは驚愕した。どうやら男は単純に強いばかりでなく頭脳派でもあるようだ。
そんな男にツナは嫌な予感を覚える。
(この人は獄寺君やラルみたいなタイプなんだ!)
男は目をつり上げると真っ直ぐにエドの方へ駆け出した。
エドもそれに応えるかのように体勢を低くする。
(……まずい!エドは今アルの事で頭に血が昇ってる!!そんな状態じゃあの人に勝てない!!)
ツナはエドを止めようと腕を伸ばした。
しかしツナがエドの腕を掴まえる前に、エドは男の方へ駆け出していた。
「ら゛あああああ!!」
「エド!!」
雨の中
大きな音と共に
二つの影が交わる。
「まずはこの鬱陶しい右腕を破壊させてもらう」
冷徹な声が聞こえた。
青白い電光の中、ツナはエドの右腕が弾け、崩れ去ったのを見た。
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