大空と錬金術師
残酷な現実
朝起きると隣のベッドはもう空だった。辺りを見回しても、エドもアルもいない。
食堂だろうかとあたりをつけ、あまり寝た気がしない頭を抱えながらもそもそと支度をする。
着替えて食堂へ降りると予想通り二人の姿があった。
「おはよう、二人とも」
後ろから声をかけると二人が振り返る。
「おはよう、ツナ」
「……はよ……」
ツナはエドの向かい側の席に座る。
「……エド……大丈夫?」
明らかに昨日より悪い顔色に心配になったツナが声をかける。しかしエドは手だけふって大丈夫であると答えた。
「ちょっと夢見悪かっただけだ」
なおも心配そうにエドを見るツナに、エドはそう言って笑って見せた。
それが無理矢理作った笑顔であることは明白だったが、ツナはそれ以上言及はせず、朝食を食べる。
「……これからどうする?」
大体食事が終わった頃、アルが切り出した。
「……とりあえず、東方司令部に顔を出そうと思う」
エドは俯きがちにそう言った。
「……ニーナがこれからどうなるのか、聞きに行く」
エドはそう言って少し顔を歪めた。
エドは気付いていた。
人との合成獣などという異例の存在が、今後自由を手にすることは不可能であろうという事実に。下手をすれば実験室に送られ、今後一生研究材料として扱われる可能性に。
ツナも何となくエドが危惧していることを悟り、暗い顔で俯く。
暗い雰囲気をたたえたまま、三人はホテルを出て東方司令部に向かった。
そう距離もないため、数分歩いただけで東方司令部が見えてくる。
重い足取りで東方司令部の正門をくぐると、三人は昨日も訪れた大佐の執務室の扉の前まで辿り着いた。
エドは扉をノックしようと腕を上げ、しかしそのまま固まってしまう。そのまま少し苦し気な表情をすると、ノックをせずに腕を降ろす。
目線を上げ、扉を見上げるエドの瞳は明らかに中に入ることを躊躇っていた。
「……エド」
ツナはエドに声をかける。エドは目だけをツナに向けた。
「帰ろっか」
ツナはただ一言、そう言って優しく笑った。
エドは何も言わずに扉に背を向ける。
ツナはエドが聞きたくないなら、それでいいと思っていた。変えられない真実なら、今は聞かなくても良いと思っていた。
だから何も言わず、ただエドを促した。
しかしそんなツナの想いは背後で開かれた扉によって無に帰された。
「エドワード君!」
エドは突然かけられた声に肩を跳ねる。
三人が振り返ると、そこには出かけ用のコートを持ったリザがいた。
「どうしたの?こんな朝早くから」
その質問にエドは少し目線を下げる。逡巡するように目線をさ迷わせたが、やがて決意したように口を開いた。
「あ……あのさ。タッカーと……ニーナはどうなるの?」
リザエドの質問に一瞬沈黙する。
それを見たツナの超直感は、瞬時に警報の声を上げた。聞かない方が良い、と超直感は叫んでいた。
しかしツナはあえてそれを無視する。
―――エドが『聞く』と決めたから。
しかし現実はツナやエドが思っていたよりも遥かに残酷だった。
「タッカー氏は資格剥奪の上中央で裁判にかけられる予定だったけど
二人とも死んだわ」
リザの声が頭に響き、反芻される。
同時に手足や頭の先から血が引いていき
視界の端は白くショートした。
「正式に言えば『殺された』のよ。黙っていてもいつかあなた達も知ることになるだろうから教えておくわね」
リザはそう言って三人に背を向け、コートを着ながら歩き出す。
エドは顔色を真っ青にさせてそれを追いかけた。
ツナも震える足を叱咤して二人を追いかける。
「そんな……なんで……誰に!!」
リザに詰め寄るエドの声は動揺で震えていた。
「わからないわ。私もこれから現場に行くところなのよ」
「俺も連れてってよ!」
しかしリザは即座にエドの懇願を却下した。
エドは叫ぶように反発するが、リザは静かに首を振る。
「見ない方が良い」
短くそう言ったリザの瞳はとても強く、何を言っても聞き入れて貰えないだろう事が分かった。
エドは辛そうに顔を歪めながらも、リザの眼力に負けその場に押し留まった。
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