大空と錬金術師
異世界から
『じゃあ始めるね。えっと…まずは、アメリカ。……ヨーロピアン……イギリス……イタリア……EU……ユーラシア……ドル……ジャパン……チャイニーズ……』
どれもこれも聞いたことがない単語達。彼女にとっても同じだったのか、ハクロ将軍の娘も首を振っている。そんな少女にほんの少しだけ顔に陰を落としたツナは、一度口を閉じた。
一瞬だけ降りた沈黙。その後、ツナはゆっくり口を開いた。
『…………ボンゴレ』
……何故、アサリ貝?
エドは純粋にそう思った。少女もアサリ貝の事かと尋ねているが、ツナは曖昧に頷くだけ。それはツナが求めた答えではないのは明らかだった。
ツナは少女に礼を言うと、そのまま二人で一般車両の方へ向かっていく。
結局ツナの前に姿を表すことはできなかった。
ツナが一等車両から出ていったあと、エドは物陰から出た。ツナが通った扉を見詰めながら、先程のツナの表情を思い出していた。
少女が首を振るのを見詰めていたときの、ツナの顔。
表には出していなかったが……隠しきれない陰を持っていたその顔は、エドの心に強く刻み付けられた。
しばらく扉を見詰めていたエドだったが、何も知らない自分が考えても分かるはずがない、と踏ん切りをつけ、一般車両の方へ歩き始めた。
ツナを探しながら一般車両を歩いていくが見つからない。将軍家族のいる辺りだろうと検討を付けていたエドは、期待を裏切られ、困ったように扉に寄り掛かる。
トンッ……
背後で何かが壁にぶつかるような音がした。
確かこの車両の隣は連絡室だったな……
誰かいるのだろうかと扉の向こうに意識を向ける。扉を開こうとノブに手をかけたとき、掠れるような声が聞こえた。
『未来の後はとうとう異世界にまで来ちゃったのか……』
その声にエドはピタリと動きを止める。
今のはツナの声だった。
その言葉を理解できずに固まっていると、布の擦れる音がドア越しに伝わってくる。トサッという軽い音の後、連絡室は静寂に包まれた。
しばらく、ツナの言葉を消化するため固まっていたエドは、隣の部屋から聞こえてきた寝息により我に帰った。一度深呼吸をしてから、音を立てないようゆっくり扉を開ける。
中には、やはりツナがいた。
壁にもたれ掛かり、寝息をたてている。その顔色はお世辞にも良いとは言えず、眉間には皺が寄っている。
エドは連絡室の中まで入ると、ツナを見下ろした。
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