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大空と錬金術師
卑怯
再会されたスライサーとの戦いにエドは苦戦を強いられていた。スライサーの攻撃は早さに加え一撃一撃が重い。どうしても低い位置からの攻撃に絞られるエドは、その重みをもろに受けていた。

何度目かの攻撃を力づくに跳ね返した瞬間、ぴしっと機械鎧が嫌な音を立て、肩に違和感が走る。

『今回の機械鎧は錆びにくくした代わりに強度が下がったからあんまり無茶は……』

甦るウィンリィの言葉にエドは青ざめた。すぐさま攻撃を受けきる方向から、避ける方向へとシフトチェンジし、なるべく右腕に負担がかからないよう立ち回る。

しかし右腕を駆使した状態ですら手ごわかった相手に、右腕を庇った状態でかなうはずもなく、左肩を痛みが貫く。痛みに構う暇などなく、真上から襲い掛かる追撃を転がってかわす。エドの両足の間を通って、刀がコンクリートに突き刺さった。その隙にエドは距離を取って、片膝をつく。そして肩で息をしながらスライサーを伺った。

「……まるでサルだな」

床に突き刺さった刀を抜きながら、スライサーは愉快気に笑う。

「久しぶりに手ごたえのある元気な獲物で嬉しいぞ……だが、その傷と疲労では勝負は見えている」

スライサーは爆音の上がり続けるレッド・レッグの方をちらりと見やる。

「あそこで奮闘している彼も、活きは良い様だが、あの程度の爆発では到底レッド・レッグには敵うまい。生身の時分なら話は違っただろうが……相手が悪かったな。表にいるお前の仲間は今頃私達の連れが始末しているはずだ。助けに来ることは出来んだろう」

エドは伝う汗を乱暴に拭い、スライサーを視線で射貫く。

「よお……その連れって強いのか?」
「強いぞ。私よりは弱いがな」

スライサーの答えにエドは口を大きく開けて笑った。

「あっはっは!!だったら心配いらねーや」

息を整えて、ゆっくりと立ち上がる。

「俺昔っからアイツと喧嘩して勝ったことないんだ」

「例えお前の仲間が私達の連れを倒しここに向かっていたとしても、この建物は複雑な造りになっている。ここまでたどり着くのにかなりの時間を費やすだろうよ」

あくまで理詰めで言い募るスライサーに、エドは不敵に笑みを浮かべ、チラリと部屋の出入り口を見やった。その視線に気づいたスライサーが瞬時に体勢を低くして臨戦態勢に入る。

「アル!!今だ!!!」

その声にスライサーは素早く出入り口を振り返る。しかしそこには誰もいない。エドのハッタリに気付いた瞬間、スライサーは返し刃でエドの首を切りにかかった。しかしエドすらも、そこにはいない。エドはスライサーに背を向けて逃げるように走り出していた。この絶好のチャンスに、しかしエドはスライサーへ攻撃を仕掛けなかったのだ。

何故、とその理由を知る前に、スライサーの背中と膝の裏を衝撃が襲った。



「甘いわ!」

レッド・レッグは身をひねり、足を大きく振り上げて全てのダイナマイトを弾く。

「狙っている場所の分かり切った飛び道具なんて、避けられないハズがないでしょう?」

レッド・レッグは獄寺に飛び掛かった。獄寺は出したダイナマイトの導火線に火をつけて、しかし投げつけることも間に合わずバラバラと床に転がる。獄寺はレッド・レッグの脚技を交わしながら、今にも爆発しそうな足元のダイナマイトを蹴る。レッド・レッグの背後で小規模の爆発音が数度鳴り響いた。

「血印の場所、気付いても声に出して言うべきじゃなかったわね」

甲高い嘲笑と共に避けきれなかった蹴りが獄寺に食い込む。体勢が崩れたところに追撃が襲い掛かる。鈍く重い痛みに顔を顰めながら、獄寺は不敵に笑った。

「馬鹿が……聞かせるために言ったんだよ」

レッド・レッグの背後で、再び断続的な爆発音が鳴り響く。

「ったく、人使いが荒れぇな!!」

爆発音に混ざって聞こえて来た第三者の声に振り返るレッド・レッグの視界で金と鋼の煌めきが踊る。そこにいたのは体勢を低くしたエドだった。エドは合わせた両の手を素早く伸ばし、レッド・レッグの左肩に触れる。触れた先から錬成反応が走り、胴と左腕が別れていく。

「このガキ……! スライサーは何して!?」

レッド・レッグは振り向き様に言葉をつまらせる。
エドと戦っていたはずのスライサーは、エドワードの後ろで断えることなく続く爆発に巻き込まれていた。それまで近接戦闘で使用していたダイナマイトの比ではない、高威力の爆発に足元を掬われ、スライサーは体勢を崩したまま動けずにいる。

そこに獄寺が一本のダイナマイトを投げ込む。宙で弧を描いて舞うダイナマイトは弾尻で小さな爆発音を上げた直後、真っ直ぐ正確にスライサーの頭上へ飛んで行き、爆発する。その爆発でスライサーの頭部―――血印のあった弱点―――は弾け飛び、遠くへ転がっていく。

レッド・レッグは最後の抵抗とばかりにエドに蹴りを打ち込まんと脚を上げる。しかしエドの体当たりによりレッド・レッグの攻撃は不発に終わった。

レッド・レッグは再び立ち上がろうと力を入れ、だがその前に完全に左腕が同から切り離され、崩れ落ちる。

「くうううううっ……!!」

腕だけとなり、何もできなくなったレッド・レッグが悔し気に呻き声を上げる。

「これは一本取られたな。騙し討ちとはなかなか卑怯な連中だ」

「喧嘩に卑怯くそもあるか」

対照的に遠く転がるスライサーは落ち着いた様子だった。エドは腕だけになってものたうち回り、隙あらば首を絞めようと手を動かすレッド・レッグから離れ、スライサーの頭部に歩み寄る。

「どうした、まだ私の血印も彼女の血印も壊されていないぞ。さっさと破壊し……」

言葉の途中でエドがスライサーの頭部を拾い上げる。

「魂が頭にあるんだから切り離しちまえば胴体はただの鉄塊だろ。それにあんたには訊きたいことがある!」


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