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大空と錬金術師
二人の守護者

No.32と名乗った鎧の目の前で、ダイナマイトが弾けて爆音を立てる。それを合図に戦いの火ぶたが切って落とされた。

「お手並み拝見」

エドの方はNo.48に先手を取られる。低い位置から振られた刀を、エドはさらに身をかがめてかわした。しかし斬り返しの一撃には反応できず、肩から腕にかけて鋼の刃で撫でられる。高い音と共に、斬り裂かれた服の下から機械鎧の装甲が姿を露わした。

「肩まで鋼の義手か、命拾いをしたな……だが! 俺の愛刀は鋼さえも貫く!!」

No.48は距離を取ろうとするエドに走り寄りながら首を狙った強烈な上段突きを繰り出す。

「……冗談じゃねえ!! 義手また壊したらウィンリィにぶっ殺されるじゃねーか!!」

その気迫に怯まず、エドは一歩踏み出すと腕を思いっきり振り、義手の刃で突き出された刀の側面を弾き飛ばした。そして刀が逸れた事で隙の生まれたその胴に、義足で重い一撃を入れる。

穿たれた鎧が大きな音を鳴り響かせた。

「!!」

何かに気付き目を見開いたエドは、追撃することなく身を引き、そして顔を引き攣らせる。



一方獄寺は最初の一撃によって悪くなった視界の中、耳を研ぎ澄ませ、油断なく構えていた。
カチリ、と金属の触れ合う音を左から拾う。そこに即座に追撃のダイナマイトを数本投げ込んだ。

「尖った雰囲気に見合った、荒々しい挨拶ね。素敵」

ダイナマイトを蹴りで弾いたNo.32は、弾いた先で連鎖する爆発に臆することなく、獄寺に駆け寄る。獄寺は横方向に走り距離を置きながら、10本のダイナマイトを高く散らすように投げる。そのうちの避けきれなかった数発が直撃したことを確認した獄寺は、その隙を逃すまいと新たなボムを構えた。
しかし少しも怯まず、少しの隙も生み出さず、No.32は素早く獄寺との距離を詰めると、床を蹴って飛び上り、獄寺の首を狙った膝蹴りを繰り出した。

獄寺は咄嗟に姿勢を低くしてその攻撃を避ける。次の瞬間、No.32が大きな音を立てて着地した瞬間、辺りに鳴り響いた金属音に、獄寺は大きく目を見開いた。

「……おいおいこの空洞音……ひょっとしてあんたその中空っぽなんじゃねーの?」
「この音の響き方……お前、その鎧の中、何も入ってねえな?」

奇しくもエドと獄寺は同じタイミングで敵の秘密にたどり着いた。

「―――驚いたな。よく気が付いた」
「バレるなんて想定外」

No.48は刀の切っ先をエドから外し、刀身で肩を叩く。No.32も構えを解いて肩をすくめた。

「あんたみたいのとしょっちゅう手合わせしてるんでね。感覚で分かったよ」
「耳は良い方でな。通りでボムに怯まねーわけだ」

エドと獄寺は、敵が構えを崩しているこの隙に、それぞれ少しずつ後退し、背中合わせになる。鎧の二人はエドと獄寺のその行動を容認しつつ、興味深げに言葉を続けた。

「ほう、表に世界にも私と同じのがいるのか」
「嫌になるね。俺以外に魂を鎧に定着させる何てこと考える馬鹿がいるなんてよ」

エドは心底嫌そうに吐き棄てる。

「では改めて名乗ろう私の“48”は死刑囚ナンバー……生前、と言うべきか、生身の身体があった時は『スライサー』と巷で呼ばれていた殺人鬼だ。表向きには2年前に死刑になった事になっている。スライサーの腕を買われて実験材料にされてな。今はここの番犬だ」

「私の“前”の呼び名は『レッド・レッグ』。活発な若者と戯れていたらいつの間にかそう呼ばれるようになったの。でもこれ気に入ってないから呼ぶならサニーって呼んでくれる? 捕まった後の経緯はスライサーと同じなのだけど、まあ若い男と遊べるなら、身体なんてあってもなくても変わらないわ」

二人は生前の殺人鬼だった頃の通り名にて名乗りを上げる。これで、エドの立てた仮設である、『囚人による人体実験』まで立証されてしまった。

「って事は魂と鎧を仲立ちしている印がどこかにあるんだな?」
「ふむ、全てを説明する必要も無しか。私は錬金術には詳しくないが、血液自体が魂を繋ぎ留め、そして血液中に含まれる鉄分が鎧の金属部分と同調しているらしいな」

話すスライサーの声音は、彼と一戦交える前の冷たいそれとは大きく違う。本当の名を名乗りあげたことも含め、恐らくエドの実力が彼のお眼鏡にかなったのであろう。

スライサーは鎧の頭部の紐を解くと、前面部分を上に開く。頭部の裏側に、血印が刻まれていた。

「私の頭部の血印。これを壊せばお前の勝ちだ」
「弱点を教えてくれるなんて親切なオッサンだな」

予想もしないスライサーの行動に、エドは一瞬緊張感が抜け、呆れたように首を傾げる。頭部を戻し、紐を留めながらスライサーは楽しげに笑った。

「ふはは、私は戦いに緊張感を求めるタイプなんだ」
「スライサー、私には『仕事だ』とか言った癖に!」

拗ねたような声を上げるレッド・フットに、スライサーは機嫌よさげに「悪かった」と謝る。

「親切ついでにこのまま見逃してくれたりしないかな〜……なんつってみたり」

頷いてくれるはず等ない提案をしながら、エドは右腕を引いて刃を構える。スライサーもまた、刀を両手に掴み直した。

「殺人鬼が目の前の獲物を黙って逃がす訳ないだろう?」

表情の変わらないはずの鎧が、にたりと笑った気がした。

「いざ……参る!」



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あきゅろす。
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