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大空と錬金術師
錬成実験場 ※オリキャラ注意


「思ったより狭いなちくしょー」

ダクトの中は埃やクモの巣、虫の死骸に溢れていて、しかもエドの体格ですら狭いと感じる程空間に余裕がない。頭にかかりそうになるクモの巣を腕で避けながら、匍匐前進を続ける。

「ハヤトお前大丈夫か?」

自分ですらきついのだから―――認めたくはないが―――自分よりも背の高い獄寺はもっと辛いのではと思い、背後を振り向く事も出来ないままに呼びかければ、そっけなく「問題ねえ」と返ってきた。実際獄寺にとってはダクトを進む経験は2度目の事で、しかも1度目の前にはみっちりラルミルチによって訓練を受けていたので、特に問題なく要領よく進んでいた。

やがてエドは施設内部へ開く通気口を見つけ、その金網を義足で思いっきり踏み抜く。そうして下りた先は研究施設の廊下だった。

廊下にはフットライトが点灯しており、ぼんやりと足元を照らしている。それを確認したエドは嬉しそうにニヤリと笑った。

「何が『現在使われておりません』だ。ビンゴだぜ」

二人は入り口から反対の方向へと足を踏み出す。

崩壊の危険があると言われていただけあって、壁や床はコンクリが劣化し、崩れている箇所も多くあった。それでも奥に進んでいくと、段々と瓦礫が少なくなり、建材が整っていく。床の瓦礫が少ない事はこの施設を未だ利用している“誰か”がそこを頻繁に通っている可能性を示唆しており、比較的床の綺麗な方へ意識して足を進めた。

時折ドアの壊れていない部屋を覗いては、怪しい箇所はないか探索する。大体の部屋は、文献や実験記録等の研究所にあるべき資料は全て撤去されていて、何もないがらんどうの棚だけが取り残されている。時折物が残っている部屋があったとしても、破れた白衣や割れたコーヒーカップなどのガラクタだった。

歩く間、二人はほとんど無言だった。たまに話すのもエドのみで、内容は「ここは右に進む」やら、「この部屋を探そう」等事務的な報告ばかりだった。

もちろんこの施設を利用する“誰か”と遭遇する可能性を警戒していたこともあったが、何より獄寺が明らかに「話しかけてくるな」というオーラを放っている事が原因だった。

これは相当嫌われているな、とエドは心の中で自嘲する。

今までは兄弟を好いているツナが側にいたからかあまり表層化していなかったが、今の獄寺は非常に分かりやすい。分かりやすく、エドを嫌っている。

彼の知らない内に彼のボスに取り入った事が気に食わないのか、それとも彼のボスを賢者の石探しに付き合わせてしまっている事か、はたまたエドが国家錬金術師出会ったばっかりに傷の男との戦闘に巻き込んでしまったからか、あるいは何かウィンリィに吹き込まれたのか。心当たりが多すぎて原因が特定できない。全部かもしれない。

感情論より理論でものを考えるエドは、全ての人から好かれたいだなんて思っていないが、この先一緒に旅をする相手にここまで嫌われているのも息が詰まる。

帰ったら信用を勝ち取るためにアルと対策を練ろうと考えていたところで、二人は『錬成実験場』という大広間の前にまで辿りついた。

それまで探索した場所は外ればかりで何の手がかりも証拠も残っていなかったが、ここならば、と中に足を踏み入れる。

そこにあったのは巨大な何かの錬成陣だった。

「なんだこりゃ……」

エドは錬成陣に駆け寄ると、陣の線をたどる。円と正五角形の組み合わせで出来たその陣の中央には何かを置くための台が置かれている。そして外側の正五角形の角全てに黒く飛び散った跡がこびりついている。

「ひょっとして賢者の石を錬成するための……」
「その通り」

考えに集中していたエドは突如かけられた“獄寺のものではない”声に弾かれたように振り向く。いつの間にか背後には刀を携えた鎧の男が立っていた。


「ぅぐっ……!?」
「ハヤト!?」

反対側からは獄寺の呻く声と重い金属音が聞こえる。エドは後ろに飛んで鎧の男と距離を取りながら獄寺の方向を振り向く。獄寺は両の腕を前で交叉し、敵からの蹴りを防いでいた。獄寺に攻撃したのは、赤く塗りあげられた細身の鎧だった。

「わあっ、良い反応速度! サニー嬉しくなっちゃう」
「No.32、真面目にやれ。仕事中だ」

嬉しそうにフフッと笑う赤い鎧を刀の鎧が嗜める。それに不満げな声を上げながらも、赤い鎧は隙なく獄寺を見据える。

「どこの小僧共か知らんが、石について深く知っている様だな。私達はここの守護を任されている者。No.69と取りあえず名乗っておこうか」
「私はNo.32。サニーって呼んでね」

男はカシャリと音を立てて手に持った刀をエドに構える。赤い鎧もまた、獄寺に向かってこぶしを構えた。

「ここに入り込んだ部外者は全て排除するよう命じられているの、私達」
「悪く思うな小僧共」

エドと獄寺もまた、両手を胸の前で構え、銜えた煙草にジッポで火をつける。

「……そっちこそ“小僧”に倒されても悪く思わないでくれよな」

エドの掌が合わされ、義手の装甲から鈍く光る鋼の刃が錬成された。

「あんま甘く見てっと火傷するぜ」

獄寺のジッポを持つ手の袖口から現れたダイナマイトがタバコを火種に宙を舞った。


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あきゅろす。
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