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大空と錬金術師
監視観察
「危ない事はしないよー……なんつってな!」

月明りの下、エドは人の悪い笑みを浮かべながら夜の街を走る。その後ろに続くのはアルだ。二人はロスとブロッシュの見張りの目をかいくぐり、第五研究所へと向かっていた。

「俺達がこんな身体になっちまったのも俺達自身のせいだ。だから俺達の責任で元の身体に戻る方法を見つけなきゃならねーよ」
「そうだね兄さん」

エドの言葉にアルも頷く。周りに人影、特にアームストロングの影がないことを確認しながら、二人は勇み足で足を進めた。

目的地はこの二つ先のブロック、もう目と鼻の先という所で、二人は道の先に立つ人影に気付く。

「遅ぇよ」
「「ハヤト!?」」

そこにいたのは獄寺だった。

エドとアルは獄寺に駆け寄り、すぐに人目を避けるため手ごろな路地に入る。二人は思いもしない獄寺の出現に動揺を隠せない様子だった。

「お前何でここに……」
「どうせ第五研究所に行くだろうと思ったから先回りした」

自分達の行動を読まれていたことはさておき、だからと言って獄寺がここに来る理由が分からない。

「僕達を止めに来たの?」

アルが静かに尋ねる。

右腕らしく、獄寺はツナの望みを叶えに来たのか、と警戒していた。人の良さそうなツナと違って、兄弟とそこまで打ち解けたわけでもない獄寺が、“十代目”の意見を無視してまで自分たちの加勢に来たとは思えなかった。

しかし獄寺は首を横に振る。どうやら止めに来たわけではないらしい。

「ツナには何て言って来たんだよ? お前がここに来るのをあいつがすんなり許すとは思えないんだけど」

もしかしてツナもここにきてるのでは、と周りを伺うエドに、獄寺は苦虫を噛み潰したような顔で、低く唸った。

「……十代目はこの件をご存知じゃない」

獄寺の回答にますます二人は驚く。つまりそれは、普段日頃あれほどツナを慕っている獄寺が、ツナに報告できない理由で、ツナに報告しないままここに来たと言う事だ。

それでもツナへの良心が痛むのか、「すみません十代目……この落とし前は必ず……!」と小声で呻いている。

その様子にますます尋常じゃない何かを感じたエドは、恐る恐る、一番あり得ない可能性を確かめることにした。

「まさかまさか俺達を手伝いに来たって事は……」
「あり得ねえ」

食い気味で否定されてしまう。

じゃあ一体何しに来たんだよ、と小声で怒るエドに、獄寺はさも当然のように答えた。

「監視と観察」
「「はあ?」」

予想しない答えに二人は場所も忘れて素っ頓狂な声を上げた。そして慌てて顔を見合わせて「しぃー」っと人差し指を口に添える。

「十代目はお前ら兄弟を信用なさっている。あの方は人を見抜く目をお持ちだ。お前らが十代目に誠実だって事は、あの方の信頼が証明している……だが、十代目はお優しすぎる。例え相手が自分の力量も測れない馬鹿だとしても、身を削る事すら厭わずお手を差し伸べる、そう言うお方だ」

語る獄寺の目にはどこか自嘲が含まれていた。しかしその色はすぐに掻き消えて、兄弟を警戒する強い眼差しに変わる。

「お前らが十代目にとって有益な人間なのか、それとも十代目を危険にさらすだけの役立たずなのか、確かめさせてもらうぜ」



いくら危ないからと言っても「嘗めんな」と突っぱねられ、信用を疑われているのにそれ以上獄寺の同行を拒絶するわけにもいかず、結果話を終えた三人は第五研究所まで一気に近づき、そしてそっと陰から正門を伺った。

「ふーん……使ってない建物に門番ねえ……」
「あやしいね」
「っていうかあの門番はどういう命令で廃屋を見張らされてんだよ……」

正門が使えないため、門番の死角に隠れつつ研究所の側面の塀まで近づく。

「どうやって入る?」

そう言ってエドは有刺鉄線で覆われた塀を見上げる。

「錬金術師ならドア位作れんじゃねーのか?」
「いや、それだと錬金反応の光で門番にばれちゃうかも」
「ハヤトはツナみたいに飛べないのか?」
「俺のに飛行能力はねえ。いっそ門番伸しちまうのが一番早いだろ」

面倒臭そうに提案する獄寺に「明日俺達があそこにぶち込まれるわ」とエドが隣の刑務所を指さして突っ込みを入れる。

結局手っ取り早い方法は特に無いようで、エドは肩をすくめるとアルに目で合図した。アルは心得たと言わんばかりに手を組んでエドに差し出す。エドは足をアルの量の手にかけ、思いっきり踏み込む。それに合わせアルが量の腕を上に振り上げた。
まさに阿吽の呼吸で飛びあがったエドは、塀の上の有刺鉄線を潰すように義手と義足で器用に着地した。そして棘などものともせず、鋼の義手で有刺鉄線を引き延ばし、下へと垂らしていく。

「悲しいけどこういう時には生身の手足じゃなくて良かったって思うぜ……」
「ははは、同感」

垂らされた鉄線をアルが掴み、そのまま鉄線を伝って塀を登った。有刺鉄線を掴むことのできない獄寺は、アルの背にしがみつく形で共に塀を越えた。

先に塀を下りていたエドは、二人が降りてくる前に入り口に向かい、そして苦い声を上げた。

「うげ、入口もがっちり閉鎖かよ」

エドの言う通り、入り口には木が打ち付けられ、入れないようになっていた。後から追いついたアルも「これじゃあ入れないね」と困った声を上げる。もちろん錬金術さえ使えばすぐにでも入れるのだが、塀を越えたとはいえ門番に見つかるリスクはまだあったため、他の方法を探すためエドはきょろきょろと壁や窓に視線をやった。

「ん? 通気口発見」

エドはアルの肩を借り、地上2.5メートルの位置にある通気口の金網を外し、中を覗き込む。

「……奥まで続いてそうだな」

幅と高さ、そしてダクトの続く先を確認したエドは、台になっているアルと、その横で待機している獄寺を見下ろした。

「アル、ここで待ってろ。ハヤトは……来るか?」
「ええ!?」
「当然」

アルが小さく抗議の声を上げる隣で、獄寺は無愛想に短く答える。

「……2人だけで大丈夫?」

無鉄砲な兄への心配ももちろんあったが、アルは獄寺の事が心配だった。

このところ賢者の石を追う事に手いっぱいになっており、アルが獄寺について知っている事はそれほど数多くはない。常に周りを威嚇し、警戒し、ツナにだけは信頼と尊敬の念を寄せている、人より頭が回る不良少年と言う事くらいだ。何度か共闘をしたツナと違って非常時の際の彼の実力は定かではない。

兄と二人でいればどうとでもカバーできるが、生き急ぎがちな兄だけに任せるのは少々不安だった。

「って……大丈夫も何もお前のでかい図体じゃここ通れないだろ」

弟の心配も知らず、エドはアルを踏み台に通気口へ入りながら呆れたように言い捨てる。どこにいても目立ってしまう体の大きさをひそかに気にしていたアルは、地味にショックを受けつつ、エドと獄寺が建物に忍び込むのを見送った。


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