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大空と錬金術師
真実の奥
賢者の石の秘密が分かって早2日。エドとアルの二人は部屋に閉じこもっていた。よほど滅入っているらしく、食事に出た気配もない。兄弟とは別の部屋を取ってもらっていたツナと獄寺も、隣町へ山本捜索の手を広げる件についてすっかり言いそびれてしまい、いい加減何の収穫もない毎日に疲れが出てきていたこともあり、部屋で休みを取っていた。

「……」

「……」

2人とも何を話すでもなく、ただぼんやりとしている。その顔色は決して良いとは言えない。いつもなら根拠がなくともポジティブな発言でツナを励ます獄寺でさえ、先行きの見えない現状に疲れが隠しきれていない。

実際、例え隣町へ行けていたとしても、この探し方で山本が見つかるとは到底思えなかった。アメストリスは日本と同じか、下手をすればそれ以上に広い。捜索範囲を少しずつ広げたところで、このやり方ではアメストリス全てをフォローするだけで数年は経ってしまう。そもそもアメストリスにいるという確証すらなかった。

「はあ……」

一体どうすれば、とツナは無い頭を必死に絞る。
一方獄寺もまた、山本の行方、そして『元の世界へ戻る方法』について頭を悩ませていた。

エドによれば、こちらへ来た原因は、錬金術によるものらしい。例えば、元の世界に戻る方法が分かれば、こちらとあちらを自由に行き来できるようになるかもしれない。そうすればボスであるツナを安全な向こうの世界へと返すこともできるし、人手を増やして山本を捜索することもできる。しかしいくら頭の良い獄寺でも、錬金術の知識がほとんどない状態で世界の行き来の仕方など分かるはずもなかった。

それでも何もしないよりは、と図書館からエド名義で借りて来た本に獄寺が手を伸ばす―――とほとんど同時に、部屋の外から焦ったような声が飛び込んできた。

「ちょっ……お待ちください!!」
「2人とも休んでいるところですので……」

声の主はどうやらブロッシュとロスの様で、ドカドカという重い足音と共に部屋に近づいてくる。そんな外の喧噪に、ツナと獄寺は顔を見合わせる。

足音はツナ達の部屋―――を通り過ぎ、その隣で止まる。そして次の瞬間、フロアに響き渡る様な大きなノックと共に、腹に響くような声が上がった。

「エルリック兄弟!! 居るのであろう!! 我輩だ!! ここを開けんか!!」

声だけで伝わるその暑苦しさは、アームストロング少佐その人のものだった。彼の一言一言と共にドアを叩く音が大きくなっていく。そしてついに、『がきょっぼりん』という不吉な音と共に、隣の部屋のドアが開かれる音がした。

「聞いたぞエドワード・エルリック!!!」
「「いやあああああああああ」」

絹を裂くような……とは言えないが、哀れを誘うエドとアルの悲鳴に、ツナと獄寺は何とも言えない表情を浮かべながら、自室のドアを開いた。



無残にノブを破壊されたドアを押し、エド達の部屋へ入れば、どうやら事情を知ってしまったらしいアームストロング少佐が悲しみに感涙しているところだった。

「何たる悲劇! 賢者の石にそのような恐るべき秘密が隠されていようとは!! しかもその地獄の研究が軍の下の機関で行われていたとするならばこれは由々しき事態である!! 我輩は黙って見過ごすわけにはいかん!!」

その熱弁にエドワードはブロッシュとロスを恨めしそうに睨みあげる。表情を察するに……というか状況的に、彼らが口を割ってしまったのだろう。二人はただただ平謝りをしている。

「……あれ? 右手義手だったんですか?」

自室で上着を脱いでいたエドワードに、ブロッシュは驚いたように指摘する。エドとアルは慌てた様子で「東部の内乱で」「それで体を戻すのに賢者の石が必要でして」と誤魔化しにかかる。

事情を知っているアームストロングは、胸ポケットから出したハンカチーフで涙をぬぐいながら何度も深く頷いた。

「真実は、時として残酷なものよ」

しみじみと呟かれたそのアームストロングの言葉を聞いた瞬間、僅かな痛みと共にツナの頭に声が蘇る。

『真実を知っても後悔しないというのならこれを見なさい』

それは、別れ際のマルコーの声だった。真実を、賢者の石の製造方法の残虐性を知っていたマルコーの言葉だ。あのとき警報をならしていた超直感が、再び何かを訴えている。

『……そして君ならば、真実の奥のさらなる真実に―――いや、これは余計だ』

ツナはハッと顔を上げて、エドを振り向く。エドもまた、同じことに気付いた様子で顔を俯かせている。

「『真実の奥のさらなる真実』……そうか……まだ何かあるんだ……何か……」

エドは静かに顔を上げると、「セントラルの地図を出してくれ」とブロッシュに指示した。






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あきゅろす。
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