大空と錬金術師
賢者の石の真実
ツナと獄寺は毎日情報収集を繰り返すも、なかなか良い情報は集まらず、早くも中央に来てから10日が経過していた。
時折軍法会議所近くで会うヒューズによると、シェスカの能力は非常に軍法会議所でありがたがられており、早くも職場に馴染めているようだ。いい人材を紹介してくれたおかげでコーヒーを飲む時間ができた、とヒューズは終始上機嫌だった。空いた時間で山本の事を探してくれているようだったが、諜報に優れる中央軍の情報網をもってしても山本の居所は浮上してこず、完全に八方塞がりの状態だった。
ロックベルの家でアームストロングに描いてもらった山本っぽい似顔絵を片手にツナはうなだれる。
「ほんと、どうすればいいんだろう……」
獄寺もまた、寝る間も惜しんで探す方法を考えていたのだが、どうしても土地勘も常識も違う異世界だという事が足枷となっていた。
「10代目、やはり中央で情報を仕入れるのはそろそろ限界かと……エルリック兄弟もまだ動けなさそうですし、明日になっても暗号が解けていないようなら、チビから金をふんだくって隣町にでも移動する方がよろしいのでは?」
この提案はこれで3回目だった。確かに、これ以上同じ場所に留まるよりは場所を移動した方が良いに決まっている。しかしここが最も人と情報の集まるアメストリスの首都であるという事、金に関して完全にエドを頼り切っている事、何より異世界で自分と獄寺だけで何かあった時に対応できるのか、という不安から、移動することに踏み切れずにいた。
とはいえ、獄寺の言う通り、いい加減限界である。
「……うん。今日帰ったらエドとアルに相談してみよう」
そして二人はエドとアルのいる図書館会議室へと向かう。
「……ふっ……ざけんな!!!」
ツナと獄寺が階段を上っている時に飛び込んできたその声は、まぎれもなくエドのものだった。何かあったのかと慌ててツナは階段を駆け上がり、獄寺もすぐさま後を追う。
「どうしたの!!?」
会議室へ飛び込むと、そこには散乱した辞書と大量の紙、倒れた椅子、そして頭を抱えるエドとアルがいた。本日も護衛をしていたブロッシュとロスも、何が起きたのか理解していないらしく困ったように交互に兄弟を見る。
「兄弟喧嘩ですか?まずは落ち着いて」
とりあえず二人の様子を確認しようと近づいたブロッシュにアルは「違いますよ」と首を振る。その声は重く、少し震えていた。
「では暗号が解けなくてイラついてでも……?」
ロスがそう声をかけると、頭を抱えて机にうなだれていたアルが体を持ち上げた。
「解けたんですよ。暗号、解いてしまったんです」
ツナは直感的に言いようのない悪寒を感じた。それはマルコーに会った時のものとよく似ていて、脳が警鐘を鳴らす。獄寺もまた、二人の空気に何かを感じ取ったのか、眉間に深くしわを寄せる。
原因不明の重たい空気の中、ブロッシュは作った様な明るい声を上げた。
「暗号が解けったって……本当ですか?よかったじゃないですか」
「良い訳あるか!!」
しかしブロッシュの言葉はエドの叫びにかき消される。
「……何が、書いてあったの?」
意を決したツナが前に踏み出し、エドに問いかける。エドはツナを見上げると、くしゃりと顔を歪める。すぐさま逸らされた彼の表情は、悔しさと悲しさ、そして嫌悪が混じったように見えた。
「『悪魔の研究』とはよく言ったもんだぜ……恨むぜ、マルコーさんよ……」
エドは自分の足元に散らばる紙から1枚を拾い上げる。
「賢者の石の材料は……生きた人間だ」
それは苦難に歓喜を、戦いに勝利を、暗黒に光を、死者に生を約束する、血のごとき赤い石
人はそれに敬意をもって
「賢者の石」と呼ぶ
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